お酒がテーマのアンソロジー第二弾『ほろよい読書 おかわり』。お酒が飲めても、飲めなくても、ほろよい気分が味わえる名作揃いです。
『きのこルクテル』青山美智子
酒が飲めないライターの永瀬は、取材で訪れたバーでバーテンダーの女性に一目惚れしてしまう。
永瀬は下戸なのを隠し、彼女の趣味であるキノコ栽培を通じてSNSでやりとりをするようになるが…。
主人公と同じくお酒が飲めない青山美智子さんがご自分の体験を元にして書かれたのだとか。
最近ではノンアルカクテルも気軽に楽しめるようになりましたし、飲めない人がバーに通っても良いのじゃないかと思います。
『オイスター・ウォーズ』朱野帰子
牡蠣食いバトルと舌戦。正直、お酒よりもビジネスパーソン事情や牡蠣に重きを置かれています。でも、最近のビジネスやSNSの利用については興味深いものがありました。
ずいぶんビジネスよりの話だな、と思ったら作者の朱野帰子さんは『私、定時で帰ります』を書かれた人なんですね。
『ホンサイホンべー』一穂ミチ
父の死によりフランスから帰国した彩葉は、義母のベトナム人女性・ホアンと再会する。
散骨のため父の骨を砕き、ジンを飲み交わすうちに、過去の事件が思い出されて…。
映画の描写のような美しさに圧倒されました。雨に煙る庭、骨を砕く音、蠱惑的なジンの香り。
物語の展開も幾重にも重なって、最終的に予期していない味になる。それがホアンが作るクラフトジンのように味わい深いを醸しだしています。
正直、物語自体は好みではないのです。でも、それでも蠱惑的で惹きつけられてしまう。
本読みたちが一穂ミチさんを絶賛している理由がわかりました。これはすごい作家さんだわ。
『きみはアガベ』奥田亜希子
男友達に彼女ができて遊べなくなったと嘆く姪。そんな潔癖な彼女の姿に、主人公は昔の彼女に制約を敷いていた過去を思い出す。
極上のテキーラとともに語られる過去の悲しい恋愛と、現在の大人の恋、少女の頑なな思いが交錯します。
確かに、相手に「異性の友達と遊ぶな」というのは傲慢な気もしますが、やっぱり心配になりますよね。
『タイムスリップ』西條奈加
レトロな都電の窓から見かけた赤ちょうちんの店。しかし、後日その店に行ってみると雰囲気がまったく違っていて…。
美味しいお酒と美味しいおつまみという、王道の展開の中に、ちょっとした不思議さが漂っていて楽しいお話でした。
こんな風に気になった店にふらっと入るのってかなり勇気がいりますが、それが当たりだったときの喜びはひとしおでしょう。