『リカバリー・カバヒコ』を読むと、文字通り心がリカバリーされる。少しの勇気と希望と温かさを感じられる、愛おしい物語。
『リカバリー・カバヒコ』あらすじ
日の出公園にあるカバのアニマルライド。塗装はハゲ欠けているこのカバには不思議な言い伝えがある。カバヒコの体を撫でると、体の悪い部分が治るという。
近くの新築マンションに住む悩みを抱えた人々は、自分の辛さをリカバリーするためカバヒコに会いに来くるのだった。
奏斗の頭
高校に入ってから勉強についていけなくなった奏斗。仲良くなったクラスメイトの雫田さんにもひどい態度を取ってしまい…。
紗羽の口
引越し後のママ友コミュニティになじめず、自分の言いたいことを我慢している紗羽。しかし受け答えを間違えたことで、コミュニティからハブられてしまう。
ちはるの耳
耳の不調でウエディングプランナーの仕事を休んでいるちはる。原因は同僚たちとの関係にあるようなのだが…。
勇哉の足
駅伝に出たくないため、足に仮病を使っていたら、本当に足が痛くなってしまった勇哉。伝説を信じてカバヒコに会いに行く。
和彦の目
「カバヒコ」の生みの親(?)サンライズクリーニングのおばあちゃんの息子、和彦は老化と母親との関係に悩んでいた。
雫田家とスグル君
『リカバリー・カバヒコ』で印象的だったのが雫田一家とスグル君です。
カバヒコの由来はサンライズクリーニングのおばあちゃんですが、彼らは登場人物たちをカバヒコに導いたり、サポートする役割を担っています。
- 『奏斗の頭』では、奏斗と仲良くなり、カバヒコのことを教える雫田家の長女・美冬
- 『紗羽の口』では、紗羽がよく行くスーパーで、心地いい接客をしてくれる雫田家の母
- 『勇哉の足』では、勇哉に走る勇気を与えてくれた、ちょっと愚鈍だけど純粋なスグル君
作中、スグル君の名字は出てきません。でも、私は彼が雫田家の一員だと思っています。
だって、三人揃ったら『秘密の花園』で主人公たちを手助けするメイドのマーサ、弟のディコン、おっかさんになるんですよ。
作家の梨木香歩さんはこの家族には(キリスト教的な)聖性があると書いています。
雫田家とスグル君も、人の悪意を受け取らず、純粋に相手のことを思いやって世話を焼いてくれます。そんなところがマーサ一家と似ているんですよね。
公園にある「カバヒコ」が秘密の花園だとしたら、そこへ導雫田家とスグル君がマーサたちなのではと思っています。