猫にまつわるアンソロジー『猫はわかっている』

猫 アンソロジー

人気作家による猫小説アンソロジー『猫はわかっている』。
ミステリ、社会問題、ドタバタエッセイ風など、作家ごとに猫との関係性が違っていて興味深い作品ばかりです。

著:村山 由佳, 著:有栖川 有栖, 著:阿部 智里, 著:長岡 弘樹, 著:カツセマサヒコ, 著:嶋津 輝, 著:望月 麻衣
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世界を取り戻す 村山由佳

仕事に家庭に忙しい女性編集者が、取材先の動物病院で瀕死の猫に出会う物語。彼女はその老猫に、かつての飼い猫を重ねあわせ、看取ることにしたのだった。

妻と母、仕事人という苦労の多い女の人生、猫はさまざまな変化をもたらして去っていきます。

50万と7センチ 阿部智里

作家の実家にくるようになった野良猫。その特徴から、どうやら去勢済の「さくら猫」でメスらしい。家族総出で「ニャア」と呼んでかわいがっていたところ、ある日ニャアが野犬に襲われて大怪我を負ってしまった。
あわてて動物病院で手術をすることになったものの、ニャアの意外な秘密があきらかになり…。

はじめて猫を飼うことになった阿部先生ご一家が、愛猫に右往左往しているところが微笑ましかったです。

しかし、いかにほぼ事実とは言え、猫のケガの描写(内臓がはみ出ていたり)がエグいのは、八咫烏シリーズを彷彿とさせます。

また、この小説を書くきっかけはこちらのエッセイでも書かれています。

エッセイ 作家の羽休み

女か猫か 有栖川有栖

推理作家・有栖川有栖による猫にまつわるミステリ。主人公アリスが思いを寄せる同級生マリアから相談を持ちかけられた。

彼女の友人で学生バンドのギタリスト・シーナからの相談で、ある事件をきっかけにバンドメンバーとの仲がギクシャクしてしまったという。

それは、メンバーの家の離れ起きた「猫」にまつわる密室ミステリだった。離れに止まったバンドの作詞家・三津木の頬に傷をつけたのはメンバーの誰かなのか、それとも猫なのだろうか?

ロック好きな有栖川有栖さんの音楽描写も興味深かったですし、探偵役の江神先輩の推理も短い文章の中で本格ミステリを楽しませてもらいました。

双胎の爪 長岡弘樹

離婚が決まっている夫婦と、双子の息子・海斗と陸也はあるきっかけから猫を飼うことになった。
しかし、離婚後は息子のどちらかは猫と離れなければならない。

結局、なぜか猫に拒まれてしまった海斗が父親と暮らすことになった。

その矢先に家が火事になり、妻と陸也が巻き込まれ、妻は死亡、陸也も重体を追う。事故の処理のため防犯ビデオを見ていた夫は、妻がある動作をしていることに気がつく。

個人的にはこの作品が一番ゾッとしました。奥さんの行動が怖かったです。自分の欲望のために猫をあんなふうに扱うなんて…。

名前がありすぎる カツセマサヒコ

就活に苦戦する麗亜は、生活のためガールズバーで働くことになり、「ミミ」と名乗ることに。これまでもあちこちで偽名を使っていた麗亜は、そんな状況に昔飼っていた猫を思い出す。

その猫は他の家でも餌をもらい、それぞれ別の名前で呼ばれていた。

コロナ禍でも働かないといけない若年層の社会問題を絡ませてあって、ちょっと考えさせられました。

猫とビデオテープ 嶋津輝

大学時代、同じビデオ店のバイト仲間だった権田が、事故で意識不明だと知った伊部。
権田とはネコ好きということで意気投合し、卒業後も権田の妻の珠美がマルチ商法にはまったり、権田から猫をもらったり、濃密ではないものの、交流が続いていた。

やがて、意識が回復した権田は一本のビデオテープを伊部に渡す。

絲山秋子さんの『沖で待つ』を彷彿とさせる物語でした。恋愛ではない、一定の距離感を保つ男女の関係に少し憧れがあります。青春時代、他愛もない同じ思い出を共有する人がいるっていいですね。

嶋津輝さんの『駐車場のねこ』

幸せなシモベ 望月麻衣

千佳は姉の出産に伴い、飼い猫のミャオを預かることになった。気まぐれでマイペース、そしてとても愛くるしい猫と暮らすうちに千佳は猫がたんなるわがままではなく、

媚びることなく(中略)ただ自分で在る

のだと感じる。
猫を通して、自分がコンプレックスが払拭された千佳だったが、別れの時が近づいてきて…。

こうして読んでみると、猫と人の数だけ、関わり方も愛し方も違うのだなと感じました。そして、一見わがままに見え、人間を振り回している猫ですが、実は人間の方が勝手に恩恵をうけているんですね。

猫と人との関係は実に不思議で愛おしいです。

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