『沈黙の王』は最初の漢字を創造した殷(商)の名君・高宗武丁の冒険譚。
「古代中国歴史小説」と聞くと堅苦しい印象がありますが、『沈黙の王』は戦あり・魔法(呪術)ありの冒険ファンタジー小説として充分読めるストーリーです。
『沈黙の王』あらすじ
殷の王子、子昭(武丁)は神に唱える祝詞以外、口から言葉を発することができなかった。それを憂いた父王は彼を野に放つ決心をする。子昭は最初に賢者・甘盤のいる州をめざして旅に出る。
ある森にたどり着くと、そこには呪術者の修行をする美しい娘がいた。大蛇に襲われた彼女を救い出し、彼女の一族に歓待されるが先をいそぐ子昭は甘盤のもとへ。
やっとの思いでたどり着いた甘盤は、博学だが信用が置けない人物だった。
自らを救ってくれるものを探し、子昭は祖先の霊に救いをもとめ、高祖・帝瞬の廟へと向かう。だが途中、彼は奴隷狩りの兵につかまってしまう。そこで彼は後の宰相となる人物・「説」と出会う。
貴種流離譚
子昭の賢者を探す旅がそのまま、貴種流離譚(神や英雄が冒険を通じて成長する物語)、冒険を通じての成長、出会いの物語として楽しめます。
彼が助けた少女はやがて子昭の妻となります。「婦好」と呼ばれたその妻は、その墓の収蔵品の多さから武丁にとても愛されていたと伝わっています。
殷の時代、女性も軍事を担っていたため、婦好もまた一族の軍を率いて子昭を助けに来るのですが、そのあたりの描写は歴史小説というよりファンタジーのようです。
伝説上の神々を人間として描く
そのほかにも、弓を発明した古代の王・后げいや、笑わない絶世の美女・褒似。そして春秋戦国の悪女・夏姫を主人公にした物語が収録されています。
后げいや褒似は神や妖怪として、神話や伝説に彩られていますが、彼らを「人間」として生き生きと描かれています。
宮城谷昌光先生は言葉の表現をとても追及されている方なので、彼の書く文章は表現の堅苦しい歴史小説家とは一線を画している感じがします。
『十二国記』で古代中国に興味をもたれた方なら、次は『沈黙の王』をオススメします。