冠婚葬祭をテーマにした4つのオムニバス小説『冠・婚・葬・祭』。
中島京子さんが冠婚葬祭というテーマから垣間見れる、人生のワンシーンを独特の視点で描いています。
空に、ディアボロを高く
地方記者だった裕也は、成人式の記事に誤報を載せてしまったことで新聞社を退職。
職場がある町に未練はなかったが、街を出る最後に、誤報のきっかけとなった大道芸人を探すことに。
探し出した大道芸人の若い女の子は、足をけがして入院していた。彼女は自分のことが載った裕也の新聞記事を大事に切りぬいて持っていた…。
「冠」てなにがあるんだろう?と思ったら成人式なんですね。成人式は直接描かれず、主人公と大道芸人の女の子の新しい出発の物語です。
この方と、この方
菊池マサ枝は昔、お見合いおばさんとして何組ものカップルを結婚させてきた。しかし、世の中が見合いを必要としなくなった今、引退して余生を送っている。(もっとも職業ではないが)
ある日、偶然にも結婚を希望する男(の妹)と女が別々に現れる。同時期に持ち込まれた男女の相性を「よし」とみたマサ枝は、2人のお見合いを設定する。
最後の「仕事」はりきるマサ枝だったが、次から次へとトラブルが押し寄せてきて…
お見合いというシステムは「結婚」を「短期決戦」で决めなくてはならず、そこにはあまり当人の意志が必要ないものなのですねぇ。
けれど、確実に結婚につながるので、以前は便利なシステムだったのでしょう。でも私は、短期決戦で結婚相手を選ぶのはちょっと怖い気がしますが…。
葬式ドライブ
建築会社の新入社員の直之は、上司から「横浜の施設にいる老婦人を車にのせて、取引先の会長の葬式につれていく」という奇妙な命令を受ける。
どうやら老婦人・宇都宮ゆかりは亡くなった会長とただならぬ縁があるらしい。ゆかりさんとの風変わりなドライブのあと、ゆかりさんは亡くなり、葬式に呼ばれた直之はゆかりさんのことを思い出す。
「彼女の生きた時間は消え、記憶は消え、あとには何も残らないのだ」
というセリフが印象的でした。人の死は切ないものですが、そんな人生もまた、いさぎよくていいかもしれません。
最後のお盆
これだけちょっと不思議な感じのお話です。
母や叔母が亡くなったため、住む人のいない故郷の家を処分することになり、最後のお盆を過ごすことにした姉妹とその家族。
近所に住んでいたという男や、叔父の元婚約者と名乗る女性が次々に現れるが、話を検証すると、どうも彼らはこの世の人ではないような…。
うどんを打って食べたり、川遊びをしたり、近所の人達がお線香をあげにきたり。なつかしいお盆の風景が描かれます。
もっとも、親族が集まるとめんどくさいことも多いので、お盆自体はいまでも苦手な行事ですが…。
それでも、供養するのは、死んだ人を偲心をこめてやっていきたいな、と思いました。
冠婚葬祭をテーマにした作品
こちらは6人の作家による『私たちの特別な一日: 冠婚葬祭アンソロジー』。独特の視点で描かれる冠婚葬祭には、SFやミステリ要素もあって興味深いです。
