原田マハさんのアート小説『モダン』。
人生にアートは必要ないかもしれない。でもアートがあったら人生はきっと、もっと豊かになる。そんな希望に溢れた物語でした。
中断された展覧会の記録
2011年3月。Momaの展覧会ディレクター・日系アメリカ人の杏子は、日本に貸し出しているアンドリュー・ワイエスの『クリスティーナの世界』を即刻連れ戻せ。」と命令を受ける。
理由は東本大震災の放射線の影響が懸念されるから。
アメリカ側の「契約途中だけど、放射能ってのがやばそうだから問答無用で絵を返せ。」という態度はひどい…。
それと、物語の端々にアメリカの人種差別が感じられました。日系というだけで、主人公を日本へ行かせたり、放射線に対する知識のなさだったり。そんな描写に悲しくなりました。
私は日本人なので震災の恐怖や悲しみが先に立つのですが、部外者のアメリカからすれば最も大事なのは「貸してある自分たちの財産」なのですものね。
日本だってもし9.11の時、アメリカに北斎の『神奈川沖浪裏』があったら「お前のとこやばいからすぐ返せ」と言うだろうけれど…。
なんだかやりきれない気持ちになりました。
せめてもの救いは、日米のアートに精通した女性たちが、未来のために動き出す姿です。このふたりが展覧会を成功させたところを読んでみたいです。
ロックフェラー・ギャラリーの幽霊
Momaの警備員であるスコットだが、アートについてはまったく興味がない。
ある日、閉館間際に風変わりな青年がピカソについて話しかけてきてから、彼はアートについて考えるようになっていく。
スコットは映画『パターソン』の主人公のように仕事とバーにいく、平凡で幸せな人生だったのです。
でも、「幽霊」との出会いで彼の人生の中にアートが加わりそうな雰囲気だったのがよかった。バーのみんなで美術談義をしても楽しいかもしれません。
私の好きなマシン
美術館でなぜ「マシン」なのか。
実はMomaではすぐれたデザインの工業製品も収集していて、日本からも柳宗悦のバタフライスツールやauの携帯電話「INFOBAR」なども収蔵されています。
1980年。プロダクトデザイナーのジュリアは彼女に影響を与えたMomaの初代館長、アルフレッド・バーの訃報を聞く。
幼い頃、彼からもらった大事な言葉を思い出し、新しいチャレンジに向かう。
Momaの初代館長、アルフレッド・バーは他の作品にも登場する重要人物。『暗幕のゲルニカ』にも登場し、ピカソから「ゲルニカ」を預かった人物です。
彼が行った言葉は、そのまま彼の人生にも当てはまるかもしれませんね。
知らないところで、役に立っていて、それでいて美しい。そういうものを『アート』と呼ぶ
新しい出口
9.11のテロで大切な同僚であり、友人のセシルをなくしたことからPTSDを発症。
業務に支障をきたすようになってしまった。彼女の務めるMomaでは、よき好敵手だったピカソとマティスの大規模な展覧会が始まっていた。
それは、セシルとともにいつか自分たちが発案したいと願っていた企画だった。
夢にみた展覧会を体験したローラが「新しい出口」から、新しい道を歩んでいってほしい。
あえてよかった
日本の企業からMomaへ出向中の麻美は、何くれとなく面倒をみてくれるパティについ「ありがとう。ごめんなさい。」と言ってしまう。
それが日本の習慣なのかといつもパティに不思議な顔をされる。
ある日、Momaのデザインストアで日本の箸が「×」の形にディスプレイされているのをみた麻美は「なんとなく違和感」を感じ、パティに相談するのだが…。
日本人のお米文化に対する感覚を説明するのは、日本語でも難しいし、ましてや英語で伝えるのは大変だったでしょうね。
それでも麻美の意見を真剣に聞いてくれるパティに対して、麻美のちょっとしたメッセージは読んでいてなんだかうれしくなりました。
異文化をきちんと理解しようとするパティはきっといいキュレーターになるでしょうね。
原田マハ アート小説
- 『板上に咲く』…妻の視点から描く版画家・棟方志功
- 『楽園のカンヴァス』…アンリ・ルソーの絵画を巡るミステリ
- 『リボルバー』…ゴッホを殺した銃についてのミステリ
- 『〈あの絵〉のまえで』…アートから生きる力をもらえる短編集
- 『たゆたえども沈まず』…日本人画商とゴッホ兄弟の絆
- 『デトロイト美術館の奇跡』…美術館を守ろうとする市民たちの物語
- 『美しき愚かものたちのタブロー』…美術版プロジェクトX
- 『リーチ先生』…陶芸家・バーナード・リーチの生涯を弟子の視点から描いた作品
- 『ジヴェルニーの食卓』…女性たちが魅入られたマティス・ドガ・ゴッホ・モネとその作品の物語

