『デトロイト美術館の奇跡』は、市の財政破綻のため美術館のコレクション売却が検討された時、アートを救おうと市民たちが奮闘します。
実話を元にしたフィクションですが、こうした名もなき市民たちの愛がコレクションを救ったのかもしれません。
『デトロイト美術館の奇跡』あらすじ
2013年、デトロイト市はアメリカ史上最大の財政破綻を起こす。市民の生活を守るため、デトロイト美術館のコレクション売却を検討。
その中には伝説のコレクター、ロバート・タナヒルが寄贈したゼザンヌの「マダム・セザンヌ」も含まれていた。
デトロイトで生まれ育ったアフリカ系アメリカ人の老人・フレッドは、妻と自分が愛した美術館を守るため行動に出る。
その、ほんの小さな一滴がアートを救うきっかけになったのだった。
いち市民が起こす奇跡
『デトロイト美術館の奇跡』で一番心打たれたエピソードは、なんといっても、アフリカ系アメリカ人のフレッドです。
彼は亡き妻との思い出の残るデトロイト美術館を「友人の家」と呼ぶフレッド。
彼は、「友人が家を追われることがあってはならない」と、なけなしの年金から500ドルの寄付をします。
(フレッドは)はき古したジーンズのポケットに手を突っ込んで、皺くちゃの紙片を取り出した。
ここの描写が彼の人生を象徴していていて、とても好きです。
たった500ドルだけど、それは彼にとって、とても大事なお金です。美術館のスタッフのジェフリーはその思いを受け取り、美術館存続に向けて動き出します。
読んでいて、フレッドの姿が東日本大震災で給料をポンと寄付してくれた、台湾のおじさんに重なりました。
愛する友人を救おうとする純粋な気持ちに、思わず涙が溢れました。
正直なところ、私はアメリカがあまり好きではありません。飯はデカくて大味だし、治安は悪いし主張は強い。
でも、たったひとつ尊敬するところがあるとすれば、彼らの示す「他者への愛」です。これはもう、絶対にかなわないって思います。
2025年現在、アメリカは、排他主義の赤ネクタイの老人が他者を蹂躙していますが、いつか愛にあふれる本当のアメリカ人が、他者への愛を取り戻してくれますように…。
原田マハ アート小説
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