『夢見る帝国図書館』は、上野国際こども図書館の前身、帝国図書館にまつわる物語。
現実と幻想、過去と現在が織り込まれた独特な世界観と、そこに関わる女性の人生が切なくて心を掴まれます。
『夢見る帝国図書館』あらすじ
主人公が風変わりな女性・喜和子さんから声をかけられる。自分が作家だと話すと、喜和子さんから突拍子もないお願いをされてしまう。
それは、「自分が小さい頃に通った、帝国図書館の思い出を書いて」というものだった。
彼女の語る帝国図書館の思い出は荒唐無稽なものだった。一緒に暮らした血のつながらないお兄さんと図書館へ通い、夜には動物園の動物たちもやってくる。
そんな喜和子さんとの交流は楽しいものだった。しかし、いつの間にか喜和子さんが行方不明になってしまい…。
虚構と現実
中島京子さんはこれまでも無機物に意思をもたせた物語を書いています。(『かたずの!』など)
しかし、今回の主人公はなんと「図書館」。そこに、帝国図書館に特別な思いを持った個性的な喜和子さんの人生が交錯します。
図書館の視点
作中小説『夢見る帝国図書館』は、擬人化された図書館はが主人公。樋口一葉に片思いをしたり、文豪たちの出会いや別れを見守ったり。
荒唐無稽で文章もうまくはないのだけど、実際の歴史と空想が入り混じって、なんとも不思議な物語でした。
喜和子さんの空想と現実
喜和子さんという風変わりな女性の話す帝国図書館の過去。そして、彼女が終戦後、子供の頃に暮らしたお兄さんのことが生き生きと語られます。
しかし、どこまでが本当でどこまでが空想なのかは、読み終わってもわかりません。でも、それでいいのだと思います。
喜和子さんの人生は、親や婚家に恵まれませんでした。だから「お兄さん」たちとの暮らしが空想を交えた楽しい思い出として残ったのでしょう。
自由で空想好きな喜和子さんの精神は、主人公や周囲の人たちにしっかりと伝わり、受け継がれていきました。
死んでも残る精神的なものがあるのって、とても幸せなことだと思います。喜和子さんのように自分を自由にして生きてみたい、と思います。
まぼろしの童話
喜和子さんが探していた「お兄さん」が書いたという「としょかんのこじ」という童話。
今のようにネットで何もかも調べられる時代と違って、子供の頃何度が読んだだけ。(それも、タイトルをうろ覚え)の本を探すのは至難の業です。
でも、だからこそ思い出に焦がれるんですよね。
私も、学研のふろくだった童話で「かばに羽があった話」を探していますが、未だに見つかりません…。
※この「かばに羽があった話」については進展がありましたので、別の機会に…。