『山の郵便配達』彭 見明

山の郵便配達イメージ 家族

古き良き美しい田舎と欲望の都会。少し前の中国を舞台に、そこに生きる人々の暮らしを描いた短編集『山の郵便配達』。映画化されています。

日本の小説とは異なる設定や描写がおもしろく、読み始めると面白くて物語の中に入りこんでしまいました。

集英社
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山の郵便配達

映画の方を先に見たので、原作との違いが楽しめました。映画では息子を語り部にしていましたが、小説では父親視点で物語が綴られていきます。

山間部を歩いて郵便物を届ける配達夫は、ほとんど家に帰らない生活なので、最初は父と息子の関係はぎこちなくはじまります。

父親は配達する際の心構えとノウハウを息子に伝えながら、自らの人生をかえりみます。

映画と同じく、年老いた父親が川で息子に背負われて思わず涙するシーンは、映画と同じく小説でも涙してしまいました。

監督:フォ・ジェンチイ, 出演:トン・ルゥジュン, 出演:リィウ・イェ, 出演:ジャオ・シィウリ

映画の感想はこちら

沢国

湖のほとりで漁業を生業とする家の娘と兄嫁が小さな舟で魚をとる話。

物語自体にはさしたる展開はないのですが、娘は少女らしい感傷で、時々腹を立てたり、気まぐれに湖への道順を変えてみたりします。

兄嫁のような結った髪より、自分の三つ編み気に入っている少女。そんな思春期の短い時間と湖の美しい風景が重なって、少し切ない気持ちになる話でした。

南を避ける

老田は成長した次女が南の都会へ行ってしまうのを恐れ、文革時代の仲間たちを訪ねて相談をする。彼らは老田より成功していたが、親身になって相談に乗ってくれた。

助言のおかげで次女は落ち着き、真面目な彼氏ができたのもつかの間、書き置きを残して都会へ行ってしまう。

80年代からはじまった中国の改革開放によって都会へ行ってしまう若者たちと、残された年寄りをテーマにした話。

都会へ行った若い女性の急激な「変化」は、これまでの中国にはなかった価値観なのでしょうね。

過ぎし日は語らず

文化大革命時代、私塾の教師と生徒、その息子との交流の話。

当時の田舎ではまだ、公立の学校に通わせる余裕はなかったため、資産家の家を学校として使っていたそうです。

先生の小さな息子との友情と別れ、先生がくれた不思議な箱。主人公が当時を振り返る形で書かれているため、ノスタルジックで不思議な読了感がありました。

愛情

堅物の男性が心臓病の女性と形式的な結婚をする話。彼女は興奮できないため、結婚後も清いままの関係が続きます。

しかし、男が事故で怪我をした時、「妻」から意外な提案をされ…。

果たして彼女は本当に病気だったのか、それとも男性との生活で変化していったのか。真相はわかりません。

都会で刹那的な関係を結ぶ男女が多いからこそ、こうした純愛は尊いのでしょう。

振り返って見れば

知人のいないと都会で働く男は、懐かしさから昔の彼女に声をかけてしまう。しかし彼女の姿は変わっていた。派手な服装に宝石。

男の上司は彼女を「鶏(娼婦)」だといい、関係を断つように言い渡す。

彼もまた、彼女を蔑んでいたが、仕事をやめて落ちぶれる男に手をたったひとり差し伸べたのは彼女だった。

中国はメンツの国ですから、男がいかにおちぶれたとはいえ、蔑むべき職業の女からの施しはプライドに関わることなのでしょう。

男性の弱さと、女性のしたたかさが対象的に描かれています。

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