読み終わりたくない。もっと続いてほしい。そんな風に思った作品でした。
『カフェーの帰り道』は、昭和初期、さびれたカフェーで働く女性たちの物語。字が読めないタイ子や嘘つきな美登里、小説家志望のセイなど、一風変わった女給たちが働いています。
『襷掛けの二人』に続き、直木賞候補作にノミネートされました。(後に直木賞受賞!)
どこにでもいる女性たちの、愛おしい物語
時代背景は昭和初期ですが、登場人物たちは今でも、どこかにいそうな女性たちです。
それぞれが不安や鬱屈を抱えながら働いているのですが、客や同僚たちとの出会いによって、少しずつ人生が好転していく様子が読んでいて心地よかった。
私が好きなのが『嘘つき美登里』と『幾子のお土産』です。
『嘘つき美登里』
たわいもない嘘をつくのが好きな美登里。
カフェーで働くことになった中年の太った女・妹小路園子。彼女は名前も住所も嘘くさい。
さらには自分が男爵令嬢だといい出す始末で、自分以上の嘘つきぶりに美登里は呆れるのですが、実は…。
たまーに、嘘を本当のように話す人っていますよね。ただ、二人の嘘は「自分を良く見せよう」という欲じゃなく、可愛い感じの嘘なのがいいなあ。
美登里も言っていたけれど、こういう嘘は娯楽なのかも。
『幾子のお土産』
これだけ戦後のお話。カフェーから喫茶店に変わった西行で働く幾子と、カフェー西行の女給達が出会います。
戦後で生活は落ち着いてきたものの、心はまだ戦争を引きずっていて、戦争中とはまた違った悩みや苦しみが幾子を襲います。
けれど、人生を重ねて強かに生きる女たち、が彼女の背中を押してくれるのです。心がほんのり暖かくなりました。
生活描写と人物描写
銘仙などの着物の描写とか、カフェーの様子だとか、読んでいると浮かんでくるんです。
風が吹くとカフェーの窓枠がギシギシと音を立てたり、女給の白粉やタバコの香りが漂ってきそう。
カフェーでありがちなお色気も、女給同士の取っ組み合いのケンカもありません。淡々と、そしてしみじみとしたお話です。
でも、周りからみればちっぽけでも、彼女たちはそれぞれの悩みがあります。家族との不和だったり、夢が叶わなかったり、コンプレックスを持っていたり。
それがもう、わかるんですよね、百年後の私にも。そして、生活の描写がまるで、その時代に入り込んだかのような臨場感を感じました。
戦争の描写
また、戦争の描写もすごい。直接、空襲や戦場を描いていないけれど、日常の中に戦争がじわじわと入り込んでくる。
戦場の息子と手紙のやり取りをする『タイ子の昔』では、手紙の中に黒く塗りつぶされた箇所に、戦争が迫ってくる様子がひしひしと伝わります。
お隣の豊子さんが兄たちと交わす「暗号文」や、必死で検閲を逃れる様子も、当時の庶民の戦争への不安が現れているんですよね。
続いてほしい物語
物語は昭和25年で終わってしまったけれど、また、ここから続くカフェー西行を読んでみたい。
高度経済成長、学生運動、バブル、そして現代まで。さまざまな時代の、さまざま女たちの物語がきっとあるはずだから。


