三浦しをんさんの『舟を編む』は辞書編纂という未知の世界と、言葉への愛がつまっています。
辞書の薄くなめらかな紙の触感と、整然と並んだたくさんの言葉。読んでいるうちに、久しぶりに辞書を引きたくなりました。
タイトルの『舟を編む』は、辞書は膨大な言葉の海を渡るための舟である。という意味。そして、その舟は、自分ではなく、相手のために。
もっともふさわしい言葉で、正確に、思いを誰かに届けるために
「船」ではなく「舟」なのは、それだけ言葉の海が果てしないから、かもしれません。
辞書編纂室スタッフは、個性的な面々が集まっています。彼らについても、しをんさんはひとりひとりを丁寧に掘り下げて描いています。
なかでも登場したての馬締(まじめ)さんの変人ぶりがおもしろい。辞書「大渡海」を歌の「大都会」と勘違いしていきなり歌い出したりするのです。
愛すべき、辞書バカ
卓越した言葉のセンスを持つまじめさんですが、世情にうとく、女性にも弱い。
同じ下宿の女性・かぐやさんに思いを寄せ、いまどき十数枚ものラブレターを書くのですが、難解過ぎて伝わってなかったりと、ズレっぷりが甚だしい。ひとことで言うなら「辞書バカ」です。
でも「~バカ」って、私にとってはほめ言葉です。それだけ一つのことに熱中できるってすばらしいですよね。
個性的な辞書編纂室の面々
辞書編纂のベテラン荒木さん、松本先生、それぞれに辞書への愛と思いも語られます。
西岡くんは、最初は適当に仕事をしてるだけのチャラ男かとおもいきや、辞書づくりに情熱を注げるまじめさんを羨ましく思ったり、それを表にださず、彼の徳井な営業面でさりげなくサポートしたり…。
いいやつだな、西岡。個人的には事務担当の佐々木さんも掘り下げて欲しかったのですが。
物語の後半、大渡海の企画開始から13年後の辞書編纂室の様子が描かれています。この時間経過はそれだけ辞書づくりに膨大な時間と手間がかかることを、読者は認識させられます。
辞書づくりに必要な能力は言葉のセンスと整理整頓の能力なのだそうで。(言葉や要訳をバランスよく配置するため)私には無理だなあ…。
辞書が欲しくなる物語
本屋大賞受賞した「舟を編む」は、いくつもの書店で特集コーナーを設置されていますが、なぜか辞書と一緒に売られている書店はありませんでした。
この本の隣に辞書があれば、きっと辞書を手に取る人、多いと思うんだけど…。ちなみに私は『舟を編む』に影響されて新明解国語辞典 第八版を購入しました。
辞書で言葉を調べるのって、とても贅沢で楽しいんです。
映画『舟を編む』も素晴らしかったです。
