『ときどき旅に出るカフェ』を読んでから、ああ旅に出たいなあ、でもそう簡単に海外には行けないなあ…。
と思っていたら、この小説に出会いました。
『スーツケースの半分は』は、青いスーツケースを巡る、旅のオムニバス短編集。ぐうぜん手に入れたスーツケースが女性たちの旅に幸運をもたらしていきます。
読むと、旅に出たくなる物語です。
物語は一話完結だけれど、バトンを渡すように青いスーツケースが人をつなげていきます。
『スーツケースの半分は』あらすじ
真美は大学時代の友人たちと参加したフリーマーケットで鮮やかなブルーのスーツケースをみつけ、惹かれるように購入するが、旅行を提案しても夫に反対されてしまう。
その時、真美に勇気をくれたものはスーツケースの中にあった「あなたの旅に、幸多かれ」という言葉だった。
青いスーツケースに導かれるように、真美、花恵、ゆり香、悠子がそれぞれの旅に出て人生の指針、宝物をみつけることができた。
やがてスーツケースは縁のある人達へもどり、最後はスーツケースの持ち主に返って、また旅に出ていき…。
ちょっぴりの虚栄と不安
前半は大学時代の友人四人、それぞれの旅が描かれます。四人共仲がいいけれど、お互い少しだけ見栄を張ってしまったり、羨ましがったりしています。
ライターの仕事をしている悠子はパリへの取材旅行を羨ましがられるけれど、出版社との縁を保つために本当は採算がとれないのを無理をしている。
パリ在住の栞も、パリに住んでいるとはいえ、恋人の家に転がり込んで、フリーター状態。
うらやましいと思う人が、不安がないわけじゃない。そんなところをよく突いて書かれているのを、うんうんとうなずきながら読みました。
この言葉が、彼女たちの不安をよく表しています。結婚や出産、仕事、そして旅…。人生でつかめるものは限られているから、何を捨てて残すかはとても大変な作業なんです。
「まるで人生は掌(てのひら)みたいだ。なにかをつかみ取るためには手の中のものを捨てなければならない。」
第二話「三泊四日のシンデレラ」では、花恵が香港の高級ホテルに無理をしてでも泊まるのは、O・ヘンリの『桃源郷の短期滞在客』を思い起こさせます。
女性には、きっと、こうしたナイショの贅沢が大事なんです。今も昔も。
女の行く旅に、男はいらない
「男の行く極楽に、女はいらない」と言ったのは泉鏡花ですが、現代では「女の行く旅に、男はいらない」のです。
この物語の女性たちは「休暇がとれないから旅行に行けないよ」とか、「旅は自分の言うとおりにすればいい」。
など、言い訳やマウンティングを取ろうとする男性たちを尻目に、スーツケースを一つ持って軽やかに世界に旅立っていきます。
彼女たちも旅に出るまではいろいろと迷ったり、悩んだり、時に他人を羨んだりする彼女たちですが、いちど決めてしまえば、もう前を向いて進んでいくんですね。
旅も、人生も同じこと。彼女たちのこれからの旅に、喜びが溢れていますように。
こんな青いスーツケースで旅ができたらすてきだろうな…
近藤史恵作品感想
近藤史恵さんの作品はどれを読んでもはずれがない。
ビストロパ・マルシリーズ
カフェ・ルーズシリーズ
- 『ねむりねずみ』…歌舞伎界で起こる殺人事件
- 『みかんとひよどり』…ジビエシェフと猟師のバディ
- 『あなたに贈るキス』…美しくて残酷な青春ミステリ
- 『スタバトマーテル』…最も強く、最も恐ろしいのは母の愛

