美濃牛は古今東西のミステリへのオマージュとミノタウロス神話をモチーフに描かれた殺人事件。
作者は『ハサミ男』の殊能将之さん。斬新などんでん返しで驚かされました。
『美濃牛』では最初に犯人の名前が提示されているのに驚かされましたが、真相に至る過程が面白いのでぜひ。
『美濃牛』あらすじ
岐阜県の暮枝村にある洞窟亀恩洞。この洞窟の奥深くに重病が治る「奇跡の泉」があるという。泉の取材に訪れたライターの天瀬とカメラマンの町田。
そして村のリゾート開発に携わる謎の男・石動。天瀬たちは村に滞在中、洞窟の所有者である羅堂家の人々が惨殺される連続殺人に巻き込まれてしまう。
天瀬は羅堂家の娘・窓音に心惹かれながら、石動とともに事件の核心へと踏み込んでいく。
プロローグで犯人がわかる
驚いたのはプロローグで犯人の名前と犯行がすでに提示されていることです。
「ネタバレすんなや…!」と未読の方はお怒りになるかもしれませんね。私も「嘘でしょ?きっとなにかカラクリがあるはず…」と思ってました。
しかし、読み進めていくうちにその「カラクリ」がすごいので、犯人と犯行だけ知っていても、いやむしろ知っていたほうが面白くなっていく気がします。
殊能将之作品の特徴
神秘的な洞窟と殺人事件。横溝正史の『八つ墓村』や江戸川乱歩の『孤島の鬼』を彷彿とさせる洞窟迷路と殺人事件、財宝(?)である泉の神秘。
心躍るミステリ的要素は多いの『美濃牛』。しかし、『ハサミ男』のようなインパクトはありません。
それよりも、私が心ひかれたのは、事件に関わる人間たちでした。
村人や羅堂家、奇跡の泉を求める人々。そこに警察関係者を交えた関係性が複雑で面白くて、そちらの群像劇にの方に読み応えを感じました。もちろん、トリックも面白いです。
そのあたりもまた、『ハサミ男』と同様に『ツイン・ピークス』を感じてしまうのです。
葬式とプロフィール
ミステリでは往々にして遺体は謎解きの「道具」扱いです。でも、殊能将之作品ではよく、被害者の葬式のシーンが描かれています。
これは、遺体を道具ではなく人間として扱っている感じがするし、物語にリアリティが感じられるのです。
また、ミステリでよく見かける冒頭に登場人物の名前と年齢が書かれていない。これにもなにか作者の意図があるように思うのですが…。