『精霊の守り人』上橋 菜穂子

ファンタジー

精霊の守り人』は、日本人が待ち望んだ母国語で書かれた異世界ファンタジーの傑作。

剣や魔法といった西洋ファンタジーとは違う、アジア風の異世界を舞台に、女用心棒が少年を守る物語です。

母国語で読める、私たちが読むべきファンタジーにようやく出会えたー。

これはの文庫解説の一節ですが、『精霊の守り人』という作品についてこれほど端的に表した文はほかにないでしょう。

著:菜穂子, 上橋
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『精霊の守り人』あらすじ

国名に「新」の名がつく新ヨゴ皇国は、もともとヨゴの王族トルガルとナナイ大聖導師が海を渡り、土地の子供にとりついた水妖を退治してより、この地を収めたことから始まる。

トルガルの世から250年後。新ヨゴ皇国の第二皇子・チャグムに水妖の卵がとりついてしまった。穢れを嫌う帝より命を狙われるチャグム。

何度目かの暗殺からチャグムを救ったのは女用心棒・バルサだった。バルサはチャグムの母・二ノ妃より帝の追っ手からチャグムを守ってくれるよう依頼をうける。

そこから女用心棒バルサとチャグムの逃亡劇が始まる。傷を負いながらも帝の刺客から必死でチャグムを守るバルサ。

その後、チャグムの「卵」を巡り、宮廷の星読み博士のシュガと、市井の大呪術師・トロガイ師の協力により意外なことが判明する。

しかし「卵」を狙うある生き物が別の次元「ナユグ」から現れる…

『精霊の守り人』の作りこまれた世界観

『精霊の守り人』を読むと、まずその世界観に圧倒されます。

新ヨゴ王国という架空の国の食べ物・歴史・民族・宗教にいたるまで描かれています。

「食」については、「この季節にはこんな植物が実るから、それでこんな味付けの鍋をつくる」など、簡単な料理レシピまで書かれている。異世界の「食文化」が成立しているのです。

どんな気候でどんな作物が実って、それをどう加工して食べるかー。
人があつまり、生きていけば必ず現れるもの。

そんな一番大事な「食」をきちんと描いてくださるのはほんとうにすばらしいことだと思います。

なのに小説では「食」の表現が少ないんですよ。

物語中「食」を丁寧に描いていたのは、SFでは椎名誠、時代劇では池波正太郎と宮部みゆき、ファンタジーではこの上橋菜穂子さんくらいではないでしょうか。

宗教や地方の風習までも完璧につくられた世界。は、どこか懐かしく、同時に異国へのあこがれがかきたてられます。

偕成社版・精霊の守り人

もともと『精霊の守り人』は児童書として執筆されました。挿絵も豊富な児童書ですが、挿絵をスタジオジブリの二木真希子さんが手掛けています。

二木真希子さんは宮崎駿の右腕ともいわれた優れたアニメーターさんでした。詳細な描写で精霊の守り人の世界を描いてくれています。

著:上橋 菜穂子, イラスト:二木 真希子
¥1,650 (2024/12/09 07:27時点 | Amazon調べ)

ファンタジーには地図がつきもの

架空の世界の地図は、いつだって私たちを物語の世界へ連れて行ってくれるすばらしい道しるべです。『精霊の守り人』にも新ヨゴ皇国の都とその周辺の山や川がしるされた地図が載っています。

新ヨゴ皇国の都は2つの川にはさまれた巨大な中洲にあります。実はその地形が最終話『天と地の守り人』では重大な意味を持ってくるのです。

地形ひとつとっても綿密に考えられた世界。その表現の丁寧さが『精霊の守り人』の魅力です。

これは、作者上橋菜穂子先生が文化人類学者であることも関係しているのでしょう。

その辺が、異世界転生などの「大量生産ファンタジー」と圧倒的に違うところだと思います。

異世界転生ものも決して悪くはないのですが、やはり『精霊の守り人』を読んだあとだと、どうしても比べてしまいます。

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