書店まんが『書店員 波山個間子2』で紹介されていた棟方志功の自伝エッセイ『板極道』。
志功センセイの文は、上村松園や小村雪岱のように洗練されているわけでもなく、話は前後するし、言葉遣いは独特。正直、読みやすいとは言えない文章です。
(序文を書いた谷崎潤一郎も、同じようなことを書いてますし。)
でも、なんというか、文章からほとばしっているんです。情熱が。現代でたとえるなら、エレカシの宮本浩次さんでかも。雰囲気が似ています。
情熱のひと・棟方志功
志功センセイは作品に対しても人に対しても、とにかく情熱的。「わだばゴッホになる」と独学で油絵を描き、その後はゴッホが憧れた日本の版画に自らの道を見出します。
仏像が見たいと、河井寛次郎の帰京に合わせて京都についていってしまったり、借家の襖や便所の壁に絵を描いてしまったりと、その情熱エピソードは尽きません。
海外への講演旅行で欧米を訪れた時、美術館でゴッホのひまわりの絵のそばに、自分の版画が展示されているのを見て涙が止まらなかったそうです。
また、人に対しても情熱的で、恩人の死に際し、ご遺族より大泣きして逆に慰められたり、作品を見ては感動で泣いてしまうほどでした。
愛されキャラ
そんな情熱的で芸術への猪突猛進な棟方志功は、ふるさと青森はもちろん、東京、疎開先の富山でも愛されていました。
みんな、この風変わりで声が大きく、奇妙だけれど、どこか人を惹きつけるこの風変わりな男を愛していたのです。
上京するときには職場や親戚、友人知人がお金を出し合ってくれたそうです。
愛されキャラはその後も健在で、欧米へ公演旅行に行ったときも現地の日本人、日本美術愛好家の欧米人たちにも愛されていました。
ちなみに北大路魯山人は、癇癪をおこすとお付きの人をステッキで叩くので嫌われていたとか…。
太宰治とのエピソード
棟方志功と同じく青森出身の太宰治。火のように情熱的で「陽」の志功と、「陰」の太宰。
志功センセイは太宰治に対しガチで「声が小さくてちょっと何言ってるかわかんない」と思ったそうです。(めっちゃ声が小さかったらしい)
ただ、太宰が志功の作品を評価して買い求めていた事には感謝をしています。
柳宗悦との出会い
最初のうちは認められず、苦しい思いをしましたが、やがて彼の版画は、柳宗悦たち民藝運動のメンバーたちに見いだされます。
この評価に感動した志功センセイ、思わず柳宗悦をハグ!柳先生は後々「あの時は棟方に抱きつかれて困ったよ。」と語っていたとか。
民藝活動のメンバーにも可愛がられ、河井寛次郎からは「熊の子」とあだ名されました。一緒に京都に行った時、濱田センセイがいたずら心で「クマノコトユク」などと電報に書いたせいで、お迎えの人たちを驚かせるエピソードも可愛らしいです。
芸術をと仏を愛し、棟方志功そのものを版画に刻んだ人生でした。後にも先にも、もうこんな情熱的で魅力的な人は現れないんじゃないかと思います。
十万石まんじゅう
埼玉県人にとってのソウルフードであり、テレ玉CMで有名な十万石まんじゅう。このパッケージは棟方志功が描いたもの。「うまい、うますぎる」のフレーズは棟方志功の言葉を元にしたのだとか。
棟方志功に関する小説
原田マハさんの『板上に咲く』は、棟方志功の妻、チヤさんの視点から棟方志功を描いた小説。こちらもおすすめ。