ローマ・ブリテン4部作、3作目の『ともしびをかかげて』は、ローマ帝国支配下の古代イギリス(ブリテン)に生きた一族の物語。
児童小説とあなどるなかれ。骨太で壮大な歴史ファンタジーです。

前半から怒涛の展開
前半の読みどころはなんといっても家族との別れと再会です。
かつて隆盛を極めたローマ帝國が衰退しローマ軍はブリテン島から撤退。
軍人の青年・アクイラはローマに戻らないと決め、軍を脱走し家族の元へ向かう。しかし、ほどなく実家の農場が蛮族に襲われ、父は殺され、妹はさらわれてしまう。
一命はとりとめたものの、別の蛮族の奴隷となったアクイラ。数年後、部族の移民にともない、懐かしい故郷ブリテン島へ戻ることに…。
性を暗示する描写
『ともしびをかかげて』は、主人公のアクイラ目線だと「全てを失った青年が、誇りを取り戻す英雄譚」です。
しかし妹フラビアの立場から読むと「全てを失なった女性が、敵の奴隷となる残酷な物語」です。
古代では、部族が戦いで負けると女たちは戦利品となります。家族を殺した相手の妻や奴隷として性的搾取を受けるのが当然で、それが嫌なら死を選ぶしかない。
アイルランド(エリン)島を舞台にした漫画『クリスタル☆ドラゴン』の冒頭でも部族間の闘争と女性の奴隷化について触れられています。
二人はやがて蛮族の奴隷と蛮族の妻として再会します。ここでのやりとりが児童小説にしてはかなり攻めた描写なんです。
大人はもちろん、カンのいい子どもならフラビアの身に何があったかを容易に想像することができます。
フラビア「戦いのあとで女たちは征服者の手に落ちるわ」
アクイラ「ある女たちはな」
アクイラの家はローマ軍人で身分の高い家柄でした。そのため、アクイラは妹が生きていて欲しいと思う反面、蛮族の(性的な)奴隷となっているなら、死んでいてほしいとも考えます。
それでも妹はしたたかに、蛮族の夫を受け入れて子を生み、その地に根をはって生きようとしています。
乱暴者の蛮族の夫がフラビアを大切に扱っていたり、奴隷ではなく妻として受け入れられているのが、フラビアという女性の持つ強さだと思うのです。
男は旅立つことがでても、女は運命を受け入れて生きるしかないのですから。
しかし女性であるサトクリフが、よくもまあここまで書ききったものだと思います。しかも子供向の小説で、今より性的描写が厳しかった1950年代に…。
後半へ続く。
