ローマ時代のイギリス冒険譚『第九軍団のワシ』。大好きな『精霊の守り人』の著者、上橋菜穂子先生が著作やインタビューで何度も取り上げられていたのがこの本です。
読んでみて思ったのは「子どもの頃に読みたかった!」です。
しかし、その反面、おとなになった今だからこそ、培ってきた経験値で物語の風景や状況が想像でき、より深く、物語の世界を楽しめました。
「第九軍団のワシ」あらすじ
紀元前100年頃のローマ時代。ブリテン島(今のイギリス)では、カレドニア(スコットランド)以外の土地はローマの支配が進んでいた。
百人隊長としてブリテンに赴任したマーカスは、地元の氏族との戦いで負傷し、軍を退役する。
やがてマーカスは、かつて父親が所属し行方不明となった第九軍団とその象徴である<ワシ>の噂を耳にする。そして叔父の友人である司令官に、<ワシ>の探索を願い出る。
その後、奴隷剣闘士として殺される運命にあったエスカを救い、旅の道連れとしたマーカス。ローマの支配が及ばないカレドニアへ向けて旅立つのだが…
ファンタジーのような歴史小説
カレドニア(スコットランド)、ヒルベニア(アイルランド)など、ローマ時代のブリテン(イギリス)の古い呼び名はまるで異世界のよう。
それだけでも異世界っぽいのですが、あまりなじみのないローマ時代のイギリスは、今のイギリスとは全く違う世界のようでした。
体感することのできる文章
ときおり、読者がまるでその世界に入り込んだような錯覚をおこさせる小説があります。ローズマリー・サトクリフの文章はまさに、体感できる小説なのです。
前半、氏族との戦いでの雨の質感、丘をわたる風のここちよさ。
カレドニアの氏族の聖地の暗闇、逃亡の緊迫感…。マーカスやエスカの体験が、ぴりぴりとこちらの皮膚にも伝わってくるような感覚が味わえます。
数は少ないものの、食事のシーンはどれも美味しそう。
また、この小説を寸分違わぬに日本語で翻訳してくれた猪熊葉子さんの力もすごい、と思います。
<ワシ>と鹿の王
おそらく、『第九軍団のワシ』は、上橋作品に影響を与えた作品であることが伺えます。
特に上橋さんの『鹿の王』では、国との対立と人同士の絆が描かれています。
そのため、両方を読んでみると、共通点があるんです。
『第九軍団のワシ』に描かれた支配者側と非支配者側との対立は、その違いを埋めるためにどうすればいいか、それを探す旅だったのかもしれません。
それは普遍的なテーマとして『鹿の王』に受け継がれている、そんな気がします。