ファンタジー作家のホラーとは『発現』阿部智里

彼岸花 小説感想

阿部智里さんの『発現』は、和風ファンタジー八咫烏シリーズとは違う切り口で描かれたホラーミステリです。

戦争中に起こったある事件と、現代の家族が遭遇する怪奇が、時を越えて発現してゆく。じわじわと恐ろしく、そしてやりきれない物語でした。

著:阿部 智里
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『発現』あらすじ

昭和40年、兄の自死の真相を探る省吾は、兄の戦友たちから話を聞き、満州で起きた事件の謎に迫る。時は流れ平成30年、突然、精神に異常をきたした兄を支えようと奮闘するさなえ。

しかし、彼女もまた幻覚を見るようになる。彼岸花と血と虚ろな目の少女が、さつきを死へと追いやろうとするのだった。

2つの時代の出来事が、やがてひとつに繋がった時、ある答えが導き出されることになる。

『発現』感想

果たしてこれはホラーなのか、と言われれば、主人公たちが恐怖を覚えるといった点ではホラーですが、でもそれだけではない歴史の悲惨さや、そこに巻き込まれた人々の悲哀が伝わってきます。

怪奇現象とミステリ要素、戦争。これらの要素が合わさって、怖くて悲しいけれど、とても魅力的なお話でしたし、戦争についてもう一度、考えるべきだな。とも感じました。

あと、昭和40年代の言い回しや表現の描写に時代性を感じつつも、現代風に読みやすくなっていて、さすが阿部先生だなと。

ラストも、除霊や浄霊などのスッキリするような解決法ではないのですが、逆にこちらの方が合点がいくものでした。

血の因果への憤り

しかし、私がこの本を読み切って思ったのが「ふざけるな」です。いえ、作家や物語にではありません。家や血統についてです。

ホラーの「呪い」や「祟り」は、たいていその子孫に継承されていきます。小野不由美さんの『過ぎる十七の春』も祖先の因果が原因で少年たちが祟られました。

私自身、血統の入れ物である「家」というものに少し苦しんだ経験があるので、主人公たちが記憶の因縁で苦しまなければならないことが、すごく嫌でした。

さつきや家族のように、自分の罪ではないことに対して、苦しみを与えられてしまいますが、世の中には罪を犯しても、反省もせず生きている面の皮が厚い人間もいるんですよね…。

記憶を継承するのは大事なことですが、それで子孫が苦しむのは辛いことです。

阿部智里作品

八咫烏シリーズ以外にも、いくつか作品を書かれています。

  • 『発現』…「あの子」がやってくる。戦争の歴史を交えたホラー
  • 皇后の碧』…美しい精霊の世界を描いたファンタジーミステリ

八咫烏シリーズ第一部(アニメ化されたもの)

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