アートには、世界を変える力がある。
たった1枚の絵で世界を変えたパブロ・ピカソ。『暗幕のゲルニカ』はピカソの「ゲルニカ」をめぐるサスペンス。
ピカソが描いた「ゲルニカ」は、ひと目見で戦争の悲惨さと愚かさが伝わる、印象的な作品です。
世界が分断されはじめた今だからこそ読んでおきたい。
ピカソが故郷・スペインの町、ゲルニカ空爆をモチーフに描き出したこの作品は、現在では美術的価値以上に、反戦の象徴として認識されています。
『暗幕のゲルニカ』あらすじ
2001年ニューヨーク。
MoMAの日本人キュレーターでピカソ研究家の八神瑤子は、アメリカ同時多発テロの報復攻撃の際、国連本部の「ゲルニカ」タペストリーが暗幕で隠されているのを見て愕然とする。
理事長、ルース・ロックフェラーの指示の下、瑤子は今だからこそニューヨークで「ゲルニカ」を展示する意義があると、スペインへ交渉に向かう。
1937年のパリ。
ピカソの恋人、ドラ・マールはゲルニカの空爆に衝撃を受けた描かれた「ゲルニカ」に衝撃をうける。写真家でもある彼女はピカソを支えながら、その製作過程を記録していく。
やがて、戦争の足音はパリにも近づいてくる。
「ゲルニカ」に魅入られた二人の女性の戦いの行方は…。
リアルとフィクションの融合
原田マハさんのアート小説は、リアルとフィクションのバランスが素晴らしい。
ゴッホを題材にした『たゆたえども沈まず』でも、ゴッホと日本人画商・林忠正との交流など、もしかしたら…と思わせる歴史の網からこぼれたようなエピソードが秀逸でした。
『暗幕のゲルニカ』では、20世紀のパリと同時多発テロの起こった21世紀のニューヨーク。
2つの場所でゲルニカに関わる二人の女性の視点が交互に描かれていきます。
ゲルニカの制作過程、暗幕事件など、実際に起きた事件をベースに、アートを武器に2人(正確には3人かも)戦う女性たちが描かています。
ピカソが「ゲルニカ」を描く様子や、その制作過程をドラが目の当たりにする描写など、本当に私達の目の前でピカソが描いているかのような臨場感を感じます。
それにしてもピカソ、かっこいいですね。ナチスの将校たちに「この絵の作者はお前か?」と聞かれると、
「ーいいや、この絵の作者は、あんたたちだ。」
実際にピカソが言ったかはわかりませんが、これを言い放つ自負と大胆さ。そりゃ、多くの女が夢中になるわけだ。
ラストシーンに目頭が熱くなる
最初はフィクションかと思われたけれど、実際はゲルニカはスペインを出ていないので、どういう展開になるのか。はたして「ゲルニカ」はMoMAで展示されるのか。
また「自分たちこそゲルニカの所有者」と主張するテロ組織まで絡んできて、後半は怒涛の展開です。さまざまな事件や人員が交錯して、最後にあっと驚くような謎解きが待っています。
そして、ラストシーン。最後の行を読んで目頭が熱くなりました。作中に登場するピカソの「鳩」のように、自由で希望に溢れたこのラストには、希望と人々の思いが溢れています。
どうか私がいるこの世界にも、希望で包まれますように…。
原田マハ アート小説
- 『板上に咲く』…妻の視点から描く版画家・棟方志功
- 『楽園のカンヴァス』…アンリ・ルソーの絵画を巡るミステリ
- 『リボルバー』…ゴッホを殺した銃についてのミステリ
- 『〈あの絵〉のまえで』…アートから生きる力をもらえる短編集
- 『たゆたえども沈まず』…日本人画商とゴッホ兄弟の絆
- 『デトロイト美術館の奇跡』…美術館を守ろうとする市民たちの物語
- 『美しき愚かものたちのタブロー』…美術版プロジェクトX
- 『リーチ先生』…陶芸家・バーナード・リーチの生涯を弟子の視点から描いた作品
- 『ジヴェルニーの食卓』…女性たちが魅入られたマティス・ドガ・ゴッホ・モネとその作品の物語

