古い町並みが残る街・川越の小さな活版印刷所、三日月堂。『活版印刷 三日月堂』は、店主の弓子さんが活版印刷を通じて、お客さんたち思いを汲んで、文字を組む物語。
初版には実際に活版印刷で刷られた1ページが追加されています。
世界は森
川越の運送会社に務めるハルさんは、一人息子が遠で進学する事に寂しさを感じていた。
そんな時、活版印刷三日月堂の孫娘・弓子さんと再会。祖父がなくなってから店を閉めていたが、事情があってこちらに住むという。
三日月堂で印刷された名前入りのレターセットは、娘時代のハルさんの宝物だった。ハルさんは息子へな卒業祝いにレターセットを贈ることにして、弓子さんに依頼する。
これが、活版印刷三日月の最初の物語です。自分の名前入りのレターセットが、活版印刷で刻まれるなんて、すてきですね。私も欲しくなりました。
八月のコースター
喫茶店・桐一葉の店主は、伯父から引き継いだ店を変えてべきか悩む。知人のハルさんから三日月堂を紹介されてショップカードをつくることに。
弓子さんと一緒に、店名の由来となった高浜虚子の句「桐一葉」をモチーフに、コースターに俳句を印刷することを思いつく。
弓子さんと話し合うことで、彼は自分悩みや、本当に求めていたものに気づきます。それにしても、俳句の世界って奥深いのですね。
作中の俳句は高浜虚子の作品だそうです。
星たちの栞
高校教師の真帆は、喫茶店・桐一葉のコースターから三日月堂を知り、文芸部の生徒たちと三日月堂を見学。文化祭でのワークショップで活版印刷を使うことや、「銀河鉄道の夜」をモチーフにした展示内容も決まった。
あとは、文芸誌の発行だけ。でも、部員の一人・侑加の作品が遅れている。そして、文化祭後に彼女は学校に来なくなり…。
女子高生が活版印刷に触れるシーンが印象的でした。
すべてに活字が組まれて印刷される。そこには質感があって、物語を書いた人がいるということを体感する
デジタル印刷は、美しく均整が取れていて活版印刷の理想形です。でも質感がなくなったために、物語の背景が感じづらいのかもしれません。
ひとつだけの活字
司書の雪乃は、「祖母が残した活字を、結婚式の招待状に使えないか」と三日月堂を訪ねてきた。その活字は、曽祖父が営んでいた活字店のものらしい。
雪乃の祖母は毎年、その活字で孫の名前をお年玉袋に印字してくれていた。しかし、残った活字はひらがなだけ。
婚約者の友明はすでに後輩のデザイナー、金子くんにデザインを依頼しており、活字の招待状づくりは頓挫するかと思われたが…。
雪乃さんの祖母の活字と、弓子さんの祖父の活版印刷の思い出。
似た境遇の2人が語りあうことで、弓子さんの秘められた過去と、自分の感情に向き合うことができるようになりました。
弓子さんもまた、お客さんによって過去にけじめをつけ、進むべき道を見出していきます。
デジタルと活版印刷
作中でも語られていますが、活版印刷のレトロで不便なところが、デジタル世代の若い人たちに受けているそうです。
けれど、不器用さをほめられるのは、職人たちとっては複雑な気持ちなのだとか。
かといって、古いものがすべて良いわけではなくて、弓子さんはそんな現代の活版印刷の活かし方を探しているように思えます。

