『カフネ』には驚きと感動がありました。あらすじは普通なのに、読むとものすごく奥深い。
疲れ果てているのに誰にも頼れない。そんな人を優しく、美味しく癒やす家事の物語です。ミステリ要素も少しあり。
『カフネ』あらすじ
法務局に務める野宮薫子は、離婚と弟・春彦の突然死が原因で生活が荒れ、アルコール依存に陥っていた。
それでも、弟の遺した遺産分割を遂行すべく、弟の彼女だったせつなと会う。しかし、彼女の態度は失礼極まりなかった。遺産についても「いらない」と厳しく突っぱねられる。
そんな態度に怒りを覚えるものの、その直後、薫子は体調不良を起こしてしまい、せつなに介抱される。
せつなが即席でつくる料理に心が温まる薫子。その後、せつなに掃除の腕を見込まれた薫子は、せつなの働く家事代行サービス「カフネ」でボランティアを始めることに。
ボランティアを続けるうち、いつも優しかった弟の意外な一面と苦しみを知り…。
せつなさんという人
冒頭のせつなさんの印象は最悪でした。でもその後、彼女が嘘のない、優しい人だとわかってきます。
この印象の変化描写がとても上手くて、いつの間にかせつなさんを好ましく思ってました。
せつなさんは、人にどう思われるかを忖度せず、きちんと自分の意志を伝える女性。私は『成瀬は天下を取りにいく』の成瀬にも通じる、意志の強さを感じました。
料理の力を信じて、疲れた人に手際よく料理を提供するせつなさん。つくるものはシンプルなのに、彼女のつくる料理は舌だけじゃなく、心を喜ばせてくれるんです。
しかし、そんなせつなさんも人に言えない苦しみを抱えています。
人には優しいのに、自分には優しくなれない。そんなせつなさんが少しでも安らいでくれますように。
さまざまな家族のかたち
この物語で私が一番憤ったのは薫子の両親です。彼らはどこか子どもを所有物と思っていて薫子を差別し、弟を溺愛し、自分たちの思ったとおりの人生を送らせようとする。
昭和の親にありがちの価値観ですが、そのために薫子も春彦も苦しみます。でも言えない。育ててもらった恩があるから。愛されているから。
日本は血の繋がりを重要視するから、こうした抑圧がでてくるんですよね。
物語の最後に、薫子が選ぼうとした新しい家族のかたちは希望であり、これからはさまざまな家族のかたちがあっていいんじゃないかなと思うのです。
『そして、バトンは渡された』では、血の繋がらない複数の親に育てられた娘の話。でも彼女はとても幸せなんですよ。

男性の生きづらさ
『カフネ』がすごいのは、男性側の生きづらさも描いている点だと思います。
弟・春彦が両親の過度な期待と愛情によって生きづらさを感じていたのに誰にも言えませんでした。そして弟の友人もまた、親の期待通りの人生を義務付けられています。
女性は性による生きづらさを感じることが多く、男性は義務と期待に追い詰められるのかもしれません。