『序の舞』宮尾 登美子

人間ドラマ

女流画家の壮絶な人生を描いた宮尾 登美子さんの『序の舞』。
愛と情念の演出は宮尾登美子さんの真骨頂ですが、モデルとなった上村松園画伯と津也を同一視するのには抵抗があります。

芸術の原動力がすべて愛欲では無いので。

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『序の舞』あらすじ

明治時代、男中心の絵画の世界へ飛び込んだ主人公・津也は少女の頃から人並みはずれて精進を重ね、徐々に才能を現してきた。

しかし、男社会で歯をくいしばっているうちに心の拠り所として、また早くに亡くなった父親の面影を求め、妻子ある師匠の松渓と情を交わしてしまう。

その後、師の子を身ごもってしまう津也。その後も男たちに翻弄されながらも絵の世界を極めてゆく。

明治の女性の地位の低さ

妊娠した途端、師匠からは掌を返され(まったく男ってやつは…!)津也は自分一人で子を育てる決心をします。絵の道でも女の人生でも、過酷な道を歩んでいくことに。

明治時代(江戸もですが)女性の地位はとても低く、弟子入り先の師匠に手を付けられる女弟子も多かったのです。

シーボルトの娘・イネも、師匠である医者に手を付けられて娘を生んでいますし。

当時はそれくらいの覚悟がないと、女が仕事を持つことはできなかったのかもしれません。(まったく男ってやつは…!)

京都ぐらしと家族

そんな逆境の津也を支えてくれたのは、女手一つで葉茶屋を営みながら育ててくれた母・勢以の存在でした。

普通の人生から外れて「嗤われる」ことを何より恐れる京都とという町で、父なし子を育てる決心をした津也を、あたたかい言葉で支えてくれます。

情熱的な津也の生きざまと、勢以と津也の逆境に立ち向かう母子の深い愛情がすてきでした。

勢以さんこそが、津也の人生の師であり、パートナーであったと思うのです。だから、生半可な男なんぞはいらんのです。

そんな母と姉、津也の京ぐらしの様子も描かれているのですが、勢以が営む葉茶屋の茶の香り、正月には必ず晴れ着を新調するなど、当時の京都の風景がとても美しい。

ただ、これらの描写は上村松園画伯の随筆からの引用にすぎないのですけれど…。

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芸術は愛欲のみにあらず

昔読んだ雑誌で松園画伯のご子息、松篁画伯が「母親をモデルにした作品のため取材に協力したけれど、実際の母親像とかけ離れており、寂しい思いをした。」というようなインタビュー記事を読んだことがあります。

確かに小説も、 中島貞夫雄監督の映画「序の舞」も、スキャンダルとエロ部分が誇張されていて、見ていてあまり気持ちのいいものではありませんでした。

この小説『序の舞』も女流画家の愛と情念についての描写はすばらしいと思います。

でも、画家としての松園画伯の姿が希薄で、ただの流されやすい女性としての印象が強いのがなんとも残念です。

ほんとうの松園画伯はとても芯の強い女性で、女の絵だと侮られ、絵に落書きをされても「そのまま飾っておいておくれやす」と毅然として言い放ったとか。

私も最初は「序の舞」の映画を見て興味本位で松園画伯の絵を見てみたのですが、絵の持つ美しさや迫力に、興味本位の印象は見事に吹っ飛びました。

本当のところ、画家がどんな人生を送ったかは、その作品がすべてを語ってくれるのではないかと思うのです。

そして、松園画伯の作品は己の色恋だけでは表現し切れない、もっと高尚なものだと思うのです。

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