『皇后の碧』は八咫烏シリーズの作者、阿部智里さんの新しいファンタジー小説。精霊の世界を舞台にした美しくも残酷な物語です。
でも八咫烏シリーズと違って読了感は爽やか。
読み終わってもまだ、新しい世界の余韻が波紋のように広がっています。
『皇后の碧』あらすじ
土の精霊のナオミは、故郷を火竜に襲われ両親を亡くし、助けてくれた風の精霊・孔雀王ノアのもとで育てられる。
ある時、孔雀王の元を訪れた風の精霊王・蜻蛉帝シリウスに見初められたナオミは、寵姫候補として蜻蛉帝の「巣の宮」へ。
実は蜻蛉帝の皇后イリスは、昔はノアの妻だった。百年前、孔雀王が蜻蛉帝に敗れた際、イリスは蜻蛉帝に捧げられたのだった。
恐ろしいと評判の蜻蛉帝だったが、「巣の宮」では、元素も種族も姿形も異なる精霊が平等に暮らしていた。
ナオミは侍女のアダから、イリスが生きているかどうか探るように言われ、後宮内を探しているうちに「巣の宮」にはある秘密があることに気づき…。
美しい精霊世界
正直、読み始めは世界観を掴むまでが大変でした…。なにせ、八咫烏シリーズとちがって人間とは異なる部分の多い精霊の世界でしたから。
- 風の精霊は鳥や蟲の翼を持つ種族
- 土の精霊以外は食物を必要としない
- 「まじない」という魔法で守護や破壊ができる(契約も)
- 精霊の死は自らを構成する要素を風に返すこと(元素に戻る)
でも、世界がつかめると後半では一転、一気に読み通してしまいました。
どんなに姿や生活が違っていても、生き物の欲望や遺恨という感情は共通しているし、争いも起きますから。
精霊ごとの特性を活かした「まじない」や戦いの描写は圧巻でしたし、精霊の特性を活かした謎解きは素晴らしかった…!
読めて幸せでした。新しい世界を構築した阿部先生、やっぱり化け物だわ…(褒め言葉です)
謎解きの面白さ
『皇后の碧』でも、『烏に単は似合わない』同様、後宮へ招かれた少女の物語です。絢爛豪華な宝石や衣、美しく個性的な寵妃たち。
しかし、読み進めていくと物語はまったく異なる方向に。精霊たちが立場や環境によって、敵なのか味方なのか、最後までわからないんです。
精霊世界ならではの「契約」というまじないが物語の鍵となる面白さ、謎に包まれた「皇后」という存在が明らかになった驚き…。
謎解きの面白さに読み応えの満腹感が半端ない…!
好きなものを詰め込んだ
インタビューでは阿部先生が「好きなものを詰め込んだ」とおっしゃるとおり、『皇后の碧』にはいろいろな要素が詰まっています。
八咫烏シリーズでも描かれた百花繚乱の花々に加え、今回はきらめく宝石や鉱物も描かれます。
他にも、姿を隠す布は先生がお好きなハリー・ポッターの透明マントだし、ナオミが喜んだ温室は『秘密の花園』の雰囲気があります。
でも、それだけじゃあないのが阿部智里作品というもの。
読み進めていくいうちに、ファンタジーでありながら差別意識やシスターフッドの要素も含まれているんです。
やはりただの美しい物語で終わらないのはさすが。
そりゃ新潮社も箔押し、美麗な装丁で後押しするわこりゃ。
阿部智里作品
八咫烏シリーズ以外にも、いくつか作品を書かれています。
八咫烏シリーズ第一部(アニメ化されたもの)
- 『烏に単衣は似合わない』…ゆるふわ世間知らず美少女のシンデレラストーリー?
- 『烏は主を選ばない』…ひねくれ小僧と空気読まない若君のバディ誕生
- 『黄金の烏』…人(八咫烏)食い猿がやってきた…!