『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』は、岸田奈美さんが家族のことや仕事のことをセキララに、そしてトコトン面白く描いた家族エッセイ。
読み終わって思ったのは「この家族すげえな」です。みんなほんとすげえ。

悲劇なのに喜劇
まず、岸田さんが中学の時、ケンカをして仲直りできないまま父親が急死。高校生の時には母親が半身不随に。
そして、車椅子になった母親とダウン症の弟。これだけでも不幸と障害のオンパレードなのに、転んでもただでは起きないんです。この家族。
いきなり車椅子生活になり、リハビリが辛くて死にたいと言う母に「死んでもええよ」と言い放つ娘。これだけ読むとドロドロの愛憎劇かと思いきや、そこには愛が溢れている。
そんな母親に「死んでもいい」と肯定しながら、「もう少し時間をちょうだい。ママが生きててよかったって思えるように、なんとかするから」と。ここを読んだ時は本当につらかった。
これ、なかなかできることじゃないし、ここで選択を間違えたらずっと家族の心が救われなかったと思う。
そしてここから岸田一家の逆転劇が始まります。奈美さんは福祉ビジネスが学べる大学へ進学。そこからユニバーサルデザインの会社を企業し、車椅子のお母さんを雇用。
お母さんはその後、心理セラピーの資格をとったりと親子で活躍の場を広げています。ほんとすげえな。
見よう見まねで生きている
ダウン症の弟、良太くん。お金の計算も数字もよくわからないけれど、そうした生活の不便を「見よう見まね」でうまく生きているんです。
よく物をなくす奈美さんのチケットを預かったり、両替はわからなくとも「紙のお金でコーラを買えば丸いお金になる」のはわかっていて、奈美さんのピンチを救ってくれます。
この弟もほんとすげえ。
読みながら思わず吹き出す語り口
名エッセイストは例えるのが得意な人だと思います。
『バッタを倒しにアフリカへ』の前野ウルド浩太郎さん、『JK、インドで常識をぶっ壊される』熊谷はるかさんなどもそう。
そして岸田奈美さんも例えがうまい。
弟の良太くんに万引きの疑惑がかかり、謝りにいった母のことを「あかべこ」と表現する例えに、何度吹き出してしまったことか。マジで秀逸。言葉選びが最高です。
その後、弟に親切にしてくれた老婦人に、今度は奈美さんが「あかべこ」になるんですが、ここは聞きながら泣きました。
このエッセイ、泣き笑いの高低差が激しくて読者を「耳キーン」とさせてきます。ご注意を。
『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』は、NHKでドラマ化も。