館シリーズ第二弾『水車館の殺人』。
マスクで顔を覆う館の主人、彼の幼妻、画家の幻の遺作を見るため年に一度館を訪れる人々。「嵐の山荘」そして、「探偵」の島田潔。
すべての伏線が回収される時、快感と恐怖が同時に襲ってきます。

『水車館の殺人』 あらすじ
岡山県の山中に立つ「水車館」は建築家・中村青司の手による奇妙な建築。西側に三連の水車をもつその洋館には、過去の事故でひどい火傷を負い、顔に白いマスクをつけた藤沼紀一と、幼妻・由里絵が暮らしていた。
また、館には紀一の父である幻想画家・藤沼一成の作品が所蔵されていた。
1985年9月28日、藤沼家と関わりのある人々が、一成の絵を見るため年に一度館を訪れる。その夜、嵐の中館では凄惨な殺人事件が発生。
一年後、再び関係者が水車館を訪れる。その中には中村青司の作品に惹かれた島田潔もいた。
そしてまた、嵐の夜が訪れ…。
過去と現在の間違い探し
過去と現在が交互描かれていくストーリー、どちらが過去でどちらが現在なのかわからなくなります。
また、どちらにも同じ文章が使用されていて、それがミスリードにつながるんですよ。
物語終盤は斜め読みで結末を先に見ないよう、一行一行、まさに手に汗握りながら読んでいきました。
ラストは申せませんが、作中にちりばめた小さなキーワードを集めていくとひとつの「事実」が浮かび上がります。
すべての伏線が回収される快感
天才建築家が残した仕掛け、マスクの男、塔にとらわれる美少女。幻想画家が残した幻の遺作…。
こうした大掛かりな伏線はもちろん、失踪者の部屋のお香、謎の音、脅迫状など、小さな手がかりもすべて、ラストに回収される快感といったら…!
マスクで顔を隠した男といえば横溝正史の『犬神家の一族』、スケキヨが想像されます。実際にマスクの男は犬神家と似ています。でも、作者もそれは想定済みだったんでしょうね。
それどころか、マスクの衝撃を予想してもなお、驚きの事実がいくつも用意されているんですよ…!
幻想への入口
『十角館の殺人』は「普通のすごいミステリ」でした。ですが、『水車館の殺人』からはすごいミステリに幻想とホラーの要素が加わってきます。
最後の絵の内容を知った時は思わず「うわ!」と声を上げてしまいました。あの薄気味悪さといったら…。
それは天才建築家・中村青司が作った建物の「場」力にに引きづられて惨劇が起きる。と、探偵役の島田さんは考えています。
その言葉通り、ここから中村青司の残した建物で次々に惨劇が起こっていくのです。ある意味、これから続く館シリーズの入口は『水車館の殺人』なのかもしれません。