『貧乏サヴァラン』は、森鴎外の娘・森茉莉の食にまつわるエッセイ集。
読みやすさを微塵も考えない文章と、 教養のない奴を置いてけぼりにするワードセンスが最高。
貧乏サヴァランとは
冒頭から、教養のない奴を置いてけぼりにするワードが炸裂しています。
マリアは貧乏なブリア・サヴァランである
調べてみるとブリア・サヴァランとはフランスの美食家のことでした。そんなブリア・サヴァランに自らをなぞらえて、美味しいものだけを求める茉莉さん。
自分好みの紅茶を淹れるためには、どうしても必要なダイヤ氷。それを求めて、下北沢の街を行ったり来たり。
そして、文章も核心に触れるまであちこちを彷徨い、ようやく結論に至るんです。でも彷徨う文章に翻弄され、けっこう結論がどうでもよくなったりします。
悪口の教養
森茉莉さんは好き嫌いが激しく、好きなものはとことん愛し、嫌いなものはこき下ろします。
『紅茶と薔薇の日々』に続き『貧乏サヴァラン』でも、茉莉さんの痛快な好き嫌いが炸裂しています。
白磁や青磁に関して、こんな風な悪口を書いています。
- ひねった人々が礼賛するのが気に入らない(白磁)
- 薄気味の悪い宿屋や料理屋の手洗いにある下駄を連想(青磁)
青磁や白磁を愛した民藝運動の創始者、柳宗悦が聞いたら驚きそうな悪口ですねえ。
とにかく、褒めるのと同じ熱量で悪口を書けるって、実は才能なんですって。書評家の三宅香帆さんが書いていました。
食いしん坊
自らを食道楽ではなく、「食いしん坊」と表する森茉莉さん。
- 刺し身の一切れを巡って、友人の小さな子どもに怒りを覚える
- 玉子とバタ(バターではない)が好きすぎて腎臓をやられる(でも食べる)
他にも、プティット・マドレエヌ、ウエハース(戦前の)、英国製ビスケットなどのお菓子に関してもこだわりの強さが感じられます。
シュウクリイムはまた、父・森鴎外との思い出と合わせて語られます。
彼女に甘かった父親は、望めばいくらでもシュウクリイムを食べさせてくれたんですって。
古本屋を舞台にした『本なら売るほど』でも、思春期の女子が森茉莉にハマる様子がえがかれています。
ドッキリ語録
彼女の短文記事『ドッキリ語録』は、現代だったらXのポストとしてそのまま使えそう。
内容は父・森鴎外の変な好物(饅頭茶漬け)、婚家での牛鍋の作り方など。
現代に森茉莉が生きていたら、SNSでバズるかもしれません。
ただ、嫌いなものは一刀両断です。
テレビの料理紹介で知らない野菜が使われていると「そんな菜っぱ知るか」と、書いちゃっているし、炎上しそうよね…。
同じく森茉莉さんの『紅茶と薔薇の日々』でも、美味しいものへの描写が溢れています。

