『ラインの虜囚』田中芳樹

ファンタジー

『銀河英雄伝説』の田中芳樹先生の『ラインの虜囚』。ナポレオン没後のフランスを舞台に、ひとりの少女と、彼女を助ける3人のおじさんたちの冒険譚。

冒険と活劇、そして謎解きが加わり、子どものようにワクワクしながら読みました。

講談社
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『ラインの虜囚』あらすじ

コリンヌ・ド・ブリクールは、フランス人の父とカナダ先住民の母を持つ少女。父親が亡くなり、絶縁中の祖父・ブリクール伯爵に会うためフランスへやってきた。

しかし、伯爵はコリンヌを認めず、「50日のうちにライン河のほとりに建つ双角獣(ツヴァイホルン)の塔に幽閉されている人物が、死んだはずのナポレオンかを調べよ。」と、いう難題をつきつけられる。

コリンヌは旅の仲間を探すためパリの街にでかけ、借金取りに追われるアレクサンドル・デュマという天才(自称)作家、紳士的だが得体のしれないラフィット。

そして飲んだくれの剣士・モントラシェをみつける。

かくて少女と3人の男たちはラインを目指すが、ならず者「暁の4人組」たちの追撃を受ける。はたして無事、塔にたどり着けるのか、そして塔の住人の正体は…?

史実かと思えるほどの物語

歴史に造詣の深い田中芳樹先生なので、登場人物についても史実になぞらえて詳細に描かれています。(私は『銀河英雄伝説』も歴史小説だと思っているんですが)

後に『仮面の男』や『三銃士』など傑作を生み出すデュマですが、モントラシェやラフィットは、まさに彼らをモデルにして『三銃士』が書かれたかも…。

と、物語が史実に思えるほど、登場人物たちが歴史の中に生きているのです。

また、ナポレオン亡き後の社会情勢が「ナポレオンが生きている」という都市伝説を作り出す要因として書かれています。

もしかして『ラインの虜囚』は本当にあった話では…?と疑うほどでした。

少女を守る、かっこいい大人たち

剣の達人モントラシェ、海賊で銃使いのラフィット、後の文豪アレクサンドル・デュマ。
飲んだくれだったり、女性に弱かったりと、それぞれだらしないところが多いのですが、実にかっこいいんです。

敵とハンカチをくわえあい、近距離で敵と決闘するラフィット。双角獣(ツヴァイホルン)で敵と壮絶な剣技をひろうするモントラシェ。口だけと思いきや、実はあんがい強いデュマ。

そんなクセのある大人たちに守られるコリンヌもまた、並の少女ではありません。勇気と聡明さと、やさしさをあわせもつコリンヌ。彼女は「もしナポレオンが生きていたらどうする」と聞かれ

「(父親が見れなかった)パリを見せてあげたい」

と答えます。

また、ある理由から偽名を使っているモントラシェにも

「正体が何者でも、あの人はわたしにとってモントラシェ、それ以外の誰でもない」

と、仲間を信じる姿勢が言葉に現れていて、とてもかっこいい。

そんなコリンヌの真っ直ぐな気持ちは、おっさんたちの父性と騎士道精神を刺激し、

「なんとかあの娘の望みをかなえて無事にカナダへ返してやりたい」

と思うようになります。

最後には『アルスラーン戦記』のアルスラーンとナルサスのような信頼関係が生まれます。

この4人の旅が、ずっと終わらなければいいのに、とさえ思いました。
でも、すべてを終わらせた4人の別れのシーンもその時のセリフもまた、かっこいいのですが。

夏になると読みたくなるミステリーランドシリーズ。

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