『写楽 閉じた国の幻』は、写楽の正体に迫ったミステリ小説です。
果たしてこれはミステリなのか、それとも学術的な研究なのか。途中でわからなくなってきます。それくらい設定がリアル。
もしかしたら、こんな「写楽」の可能性もあるのじゃないか…と。
『写楽 閉じた国の幻』あらすじ
上巻
現代編
美術史家の佐藤は、偶然手に入れた謎の浮世絵について調べていた。しかし、ある時息子がビルの回転扉に巻き込まれ死亡。自責の念にかられ、自殺を図るも、息子の事故で知り合った美貌の大学教授・片桐に助けられる。
さらに、扉メーカーとの裁判の過程で訴訟相手の関係者から自説を否定されてしまう。出版社の常世田に請われ、対抗するため新たな研究に着手することに。
それは、幻と言われた写楽の正体に関わる謎だった。
江戸編
蔦屋重三郎はお上の規制や自らの体調に鬱屈を感じながらも、ふたたび世の中を驚かすような案を探っていた。そんな折、勝川春朗(後の葛飾北斎)から、ある奇妙な絵を見せられる。
下巻
現代編
出版社の常世田、片桐とともに写楽の正体に迫る佐藤。歌麿の筆の特徴を残す写楽の絵、残された歌麿の言葉。そしてなぜ、誰も写楽の正体を語らなかったのか。
それらの史実をつなぎ合わせ、佐藤は誰も思いつかなかった「写楽」の正体を探り当てる。
江戸編
実はその絵を描いたのは意外な人物だった。蔦屋重三郎は起死回生の策として、「べらぼう」な写楽プロデュース計画を実行する。
回転ドア事件
上巻では、主人公が写楽研究に没入するトリガーとして、当時起こった回転扉事故が詳細に描写され、当時の事故の衝撃を表しています。
社会問題を描く島田荘司先生らしい描写でした。
その事故はオランダの会社と日本の会社の合作であるというのが、後にちょっとしたヒントにつながっています。
蔦屋重三郎と写楽
『写楽 閉じた国の幻』の中で、蔦屋重三郎は先見の明を持った男気のあるプロデューサーとして描かれています。
彼は、常識にとらわれない発想で「写楽」を世に発表します。
写楽は現在では能役者・斎藤十郎兵衛説が一般的です。しかしなぜ、写楽本人が後に「自分が写楽だ」と語らなかったのか。
また、佐藤は「東洲斎写楽」と「写楽」は別人と推理し、さらに「写楽は歌舞伎をよく知らない人物」と仮定します。(芝居の脇役を描いているから)
そこでさらに、蔦屋重三郎は「写楽」という画家そのものではなく、「絵」を分業で作り出していくのですが…。あまり書くとネタバレになりそうなのでやめておきます。
それにしても、とある史実(オランダ商館長の江戸参府)と写楽の活動時期がぴったり合うというのは、果たして本当に偶然の一致なのでしょうか…?
残された謎
さて、現代編で写楽の正体に迫り、江戸編では写楽を生み出し、また隠すところまで描かれましたが、いくつか謎が残っています。
- 片桐教授のルーツ
- 佐藤が最初に見つけた絵の正体
このあたりは下巻のあとがきで島田荘司先生も続編を出したいとおっしゃっていたので、ぜひこの写楽について続編を書いていただきたいです。