『うろんな客』は、大人向けのブラックユーモアに溢れた絵本。そして、柴田元幸さんの翻訳センスがすばらしい。
BSの読書番組『あの本、読みました?』で紹介され、読んでみました。怖いような、それでいて面白いよう、不思議な物語でした。
「うろん」とは怪しい、うさんくさいという意味。
マフラーを巻いたこの不思議な「うろんな客」は、ある屋敷を訪れると、家の中にトラブルを撒き散らしてしていきます。
翻訳の妙
『うろんな客』の原本は韻を踏んだ詩的な文章で綴られています。そうした表現を日本語化する時、柴田元幸さんは短歌風の文章を当てはめました。
これがとてもテンポがよく、なおかつ、状況を的確に伝えてくれます。
この短歌風の翻訳は、物語の不思議さをより際立たせてくれたように思います。没入感がすごい。
「うろんな客」とは誰なのか
さて、この「うろんの客」とは誰のことなのか。夜中に屋敷を徘徊したり、本のページを破ったり。彼(彼女?)は自分の思うままに振る舞っています。そしてずっと屋敷に居座っている。
巻末の解説によると「うろんの客」とは「子ども」の比喩らしいのです。たしかに子どもって理由のわからない行動をしたかとおもえば、思いがけないところで寝ていたりします。なるほど。
解説を読む前に私が考えた「うろんの客」は、人間の「無意識の悪意」でした。悪気のない行為が相手を困らせることはよくあります。
それに、子どもは成長するけれど、人間の悪意ってずっと変わらずあるものですから。
エドワード・ゴーリー の他の本も読んでみたくなりました。この人もアンブローズ・ビアスと同じくニガヨモギと酸をインク代りに物語を紡いでいそうですから。