翻訳家・鴻巣友季子さんの『明治大正 翻訳ワンダーランド』は、明治・大正時代の翻訳者の功績について書かれた本。
昔の翻訳家は、未知の欧米の風習や文化の描写を創意工夫・悪戦苦闘の末、翻訳していたのです。
悲劇がハッピーエンドに?明治のトンデモ翻訳事情
明治は言文一致運動(書き言葉と話し言葉が違うので一緒にしよう、という運動)が始まったばかりの時代。
その中で外国語の知識と日本語センスをもった翻訳者は希少な存在でした。
そして、明治大正の翻訳者は、その才能ゆえか、作品も人生もかなり個性的なのでした…。
結末を変えて出版した黒岩涙香
個性的な翻訳と、奇想天外な展開で人気を博した黒岩涙香。そんな黒岩涙香が手がけた翻訳本は今でも読まれています。
「レ・ミゼラブル」は「あゝ無情」へ
「モンテ・クリスト伯」を「巌窟王」に
こうしてわかりやすく日本名にしたのは涙香の功績なのだとか。
黒岩涙香は英語小説を毎日読むことを自らに課していました。「百冊に一冊」翻訳に値する小説を探しては日本の読者にわかりやすく、面白く紹介しました。
しかし、中には「翻訳」の域を超えてしまった作品も…。
著作権や版権の感覚が現代とは違う明治時代、なんと涙香は小説の結末をも変えてしまったのです…!
「鉄仮面」という小説ではそもそも主人公は鉄仮面をかぶっていなかった!
そしてアンハッピーな結末を大胆にも大団円に書き換えてしまったのです。さすがは「翻訳」ならぬ「翻案」と呼ばれた黒岩涙香…。
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翻訳おもしろエピソード
その他にも、翻訳にまつわるおもしろエピソードが満載です。
- トルストイやドストエフスキーが好きすぎて自ら翻訳してしまった翻訳家
- 日本語に翻訳されたことで、忘れられた原作が再び注目された
など、翻訳黎明期のさまざまなエピソードが満載です。
『フランダースの犬』の最初の翻訳では、ネロは清、パトラッシュは斑と訳されています。
黒岩涙香の『幽霊塔』でも舞台は英国なのに名前は日本人としていました。当時はそういった改変は普通に行われていたのでしょうね。