昔の翻訳本には、古い日本語が詰まっています。
それが、今読み返すとヘンテコな表現になっていて面白いのです。
『続あしながおじさん』のスコットランド風焼き菓子
1961年版『続あしながおじさん』では、孤児院の院長を務める主人公サリーが、マックレイ医師に「スコットランド風焼き菓子」を振る舞うシーンがあります。
そこには「スコットランド風焼き菓子を、さめないように五徳の上にのせ」という表現がありました。
スコットランド風焼き菓子とは?
だからその、スコットランド風ってのは何なのよ、って話ですよね。あとから調べたら、どうもショートブレッドのことらしいのです。
作中、マックレイ医師が紅茶にひたして食べた、という記述もあったので、ショートブレッドのほうがスコーンよりしっくりきますね。
サリーもドクトルもルーツは同じスコットランド。故郷のお菓子を食べながら暖炉の前でルーツの土地の話に花を咲かせたのかもしれません。
アメリカに五徳…?
そして「五徳」って、いつの時代だよ…中年の私ですら、おぼろげにしかその存在を知りません。調べたら「五徳」とは火鉢に刺し、その上にヤカンなどを置く鉄輪のことだそうです。
果たしてアメリカに「五徳」があるのか…?もしかしたらストーブなどの暖房で保温する器具のことかもしれませんね。
当時はまだ、海外に行く人も少ない時代なので、こういうあいまいな翻訳がまかり通っていたのでしょう。
『秘密の花園』の「おかゆにはちみつ」
昔読んだ福音館児童古典シリーズ1979年版『秘密の花園』には、主人公の女の子の朝食におかゆにはちみつを入れて食べる」と書かれていました。
子供ごごろに「おかゆにはちみつ入れてうまいのかなぁ?」と思っていたのですが、大人になってから読み返してみると真相がわかりました。おかゆ=オートミールなんです。
確かにこれならハチミツをかけて食べることができますね。たしかに「西洋のおかゆ」といえないことはないですけど。
読み返してみると翻訳も時代が出ています。また、近年発行された『秘密の花園』だと「ポリッジ」(porridge:オートミールがゆ)と表記されていました。
洋服は着物、ブーツは長靴
他にも、古い版の『秘密の花園』では、メアリーはメリーに、ディコンはディッコンと名前も少し違います。そしてなんと、「黒○ぼ」など、今では差別用語となっている言葉も登場します。
他にも洋服を「着物」、ブーツを「長靴」など、時代が感じられる翻訳が残っています。
おそらく当時の翻訳家は英語の意味はわかっても、欧米の生活については知らないことばかりだったのでしょう。
時代によって変化する翻訳
だから、当時の日本人にわかりやすく身近な例えで訳したために、今では伝わらない言葉だらけになってしまっているのです。
翻訳って時代の価値観によって変わっていくんですね。