江戸川乱歩の『幽霊塔』は、黒岩涙香版をベースに江戸川乱歩がリライトした現代版(といっても昭和初期)です。
『幽霊塔』あらすじ
北川光雄は叔父・児玉丈太郎が買い取った『幽霊塔』と呼ばれる古い屋敷を視察に行った際、不思議な美女と出会う。
彼女は時計塔の秘密を解き明かすよう、光雄に言い残し去っていく。
『幽霊塔』は幕末、渡海屋という商人が建てた洋館。そこには秘密の隠し場所へ財宝を隠したものの、そのまま行方不明となった伝説が残っていた。
その後も、塔の所有者である長田鉄という老婆が養女に殺され、その幽霊が出るといういわくつきのたてものであった。
はたして、北川光雄のまわりでも奇怪な事件が起こり、その謎の中心にあの美女・三浦栄子がいたのだった…。
江戸川乱歩版『幽霊塔』のおもしろさ
黒岩涙香版は、登場人物が日本名なのに舞台はイギリスだとか、時代がかった言い回しなど、現代の私たちが読むと混乱する文章が多々ありました。
いっぽう、乱歩版は現代語で書かれているし、時代も下っているので現代の言い回しに近く(盆栽室→温室など)、混乱することなく読みすすめることができました。
ありがとう乱歩先生…。
涙香版は新聞小説だったので、一話ごとに派手な展開が「盛って」あるのですが、乱歩版は盛られすぎた部分を削ったことで、読みやすく、恐ろしさや謎に集中することができました。
両方を読み比べると、涙香版が弁士が語る活動写真だとすれば、乱歩版はヒッチコックのサスペンス映画のような雰囲気です。
漫画あり、絵コンテあり、超豪華な宮崎駿の解説
岩波書店から出版された『幽霊塔』は、宮崎駿の口絵と解説がついています。
ただ解説といっても、全ページカラーの幽霊塔の歴史と解説、原作『灰色の女』と涙香の『幽霊塔』、乱歩版への流れ、時計塔のデザインと断面図まで、とにかくもりだくさん。
しまいには、ヒロインと主人公の出会いのシーンを絵コンテに起こしてあって、映画のビジュアルブックのような豪華さです。
原作『灰色の女』から涙香版、乱歩版の『幽霊塔』へ、そしてカリオストロへ。通俗文化とよばれるエンターテインメント作品一連の流れが紹介されています。
