『赤と青のガウン』は彬子女王の留学記。彬子女王は皇族として初めてオックスフォードで博士号を取得された方。
イギリスで体験したエピソードを面白く語っておられます。皇族、そして研究者として二つの視点で描く留学期はこれまでにない面白さでした。
ちなみに「女王」は女性統治者ではなく、天皇家三親等以上離れた皇族女性の称号。皇族の方々は名字を持たないので、こちらがフルネームなんですね。

「菊のカーテン」を揺らす風
国民から見えない皇族のご様子は時に「菊のカーテン」と揶揄されることがあります。
しかし、彬子女王の文章はそんな「カーテン」をふわりと揺らす、優しい風のようでした。そしてそれは、これまで知らなかった皇族の方々の暮らしを伝えてくれたんです。
中には、「え?こんなこと書いちゃっていいんですか?」といった内容も。
その中でも私が驚いたのは以下の三つ。
- 英国留学ではお付きがいない(!)
- 皇族のパスポートは茶色(外交旅券)
- 日本の学閥社会への批判と提言
他にも、留学終了時期を巡ってお父様や宮内省と大喧嘩をするエピソードも。「皇族の方も批判やケンカをなさるんだなあ…」と正直驚いたものです。
それにしても、寮の鍵をかけずに酔っ払った寮生が侵入してくる事件には、読んでいるこちらがハラハラしてしまいました。
英国留学のエピソード
オックスフォードで博士号を取るのは、並大抵の苦労ではなく、それは皇族であろうとも同じ。
英語の論文に頭を悩ませ、厳しい教授の指導にストレス性胃炎になり、それでも六年もの長きにわたり孤軍奮闘された留学生活。
そんな厳しい環境下でも、現地での生活の様子は興味深いものでした。
相変わらずイギリス料理は…
日本文学者の林望先生が30年以上前に書いたエッセイ『イギリスはおいしい』。この本でも、現地の料理の不味さを語られていました。
しかしあれから年月を経たというのに、イギリスって変わらないんですね。
彬子女王もイギリス料理の洗礼を受けられ、ご自分で自炊を始められています。
現地の食材を活かして料理をなさったり、日本人のご友人にお雑煮をつくってもらったり。不便な生活の中でも日常の食を楽しんでらっしゃる姿がうかがえました。
その中でも、アフタヌーン・ティーはやはり美味しいとのこと。まったく、イギリスって変わらないなあ…。
大英博物館での宝探し
日本美術を専攻され、大英博物館でもスタッフとして関わっていた彬子女王。
まったく準備が進んでいない展覧会の展示を大急ぎで設営したり、仮につけた作品タイトルがそのまま採用されてしまったり。
中でも興味深かったのは法隆寺金堂壁画の写しの発見です。
膨大な大英博物館の所蔵品は未整理のものも多く、そうした中から今は失われてしまった壁画を見つけ出すのは、宝探しのようにワクワクしました。
他にも、チャリティショップで掘り出し物の九谷焼を見つけるなど、美術好きにはたまらない内容なんです。
推しのプリンセス
読み終わってすっかり彬子女王は私の「推し」になりました。
最初は、皇族の方の生活に興味を惹かれて読んでいました。(天皇皇后両陛下やエリザベス女王とのお茶会など)
けれど、読むうちに彬子女王の研究者としての体験が大変面白く、そちらに興味を惹かれるようになったのです。
これまで研究は自然科学(植物や魚など)が多かったの皇族の方々。しかし、彬子女王のように日本美術を研究する方が現れたのは本当に嬉しい。
なにせ、日本の美を間近に見てきた方なのですから、これから日本美術の研究、普及活動が広がっていきそうで、今後のご活躍が楽しみです。