『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』 は、東日本大震災で壊滅した日本製紙石巻工場の復興ドキュメントです。
こんなにも、読むのが大変だった本はありませんでした。数ページ読むごとに、涙がでてしまうから。
この本をもとに再現されたドラマを観て「あの」池上彰さんがテレビにもかかわらず、涙を流していました。この本を読んで、その意味がわかりました。
マスコミが伝えなかった、震災
第一章「石巻工場壊滅」、第二章「生き延びた者達」第七章「居酒屋店主の証言」では、東日本大震災発生直後から、津波に飲み込まれた石巻の凄惨な描写が続きます。
その日、工場に出勤していた従業員は、総務課の徹底した危機管理によって、全員無事でした。しかし、街の中には津波に流され、壁一枚向こう側であがいている人々を助けることが出来なかった。
そして、津波が押し寄せた工場の1階に流されていた無数の遺体。震災後、無法地帯と化した街では強盗事件が続発…。
この本を読んで、いったい私達は何を観てきたのだろうかと、衝撃をうけました。マスコミでは美談、もしくは悲劇しかつたえませんから。
これらの描写は、震災を体験した人々の生の、心の声が詰まっています。
文中、壊滅した街をみて「戦時中のようだ」と表現されましたが、そんな悲惨な光景が、ほんの数年前に日本の東北で起こった事実を、忘れてはならないんです。
紙つなげ!工場再生の駅伝レース
被害状況がわかると、工場の再生は不可能だろう、そう思う人が大半でしたが、2人のリーダーが動きます。
倉田工場長は、「工場を半年で稼働する」という目標を行員たちに掲げます。
芳賀社長は「銀行と話ををつけてきた、金の心配はするな」と、石巻工場再生に向けてのバックアップを約束します。
工員たちは半年復興の目標に、最初は難色をしめしたものの、工場の復旧作業を続けることに希望を見出していくようになります。
紙を作るためには、電気、ボイラー、タービンなど、各部署の設備を復旧しなければならず、工程を遅らせることなく、次の課にバトンタッチしなければならない。
この「紙つなげ!」のタイトルには、駅伝のように各部署が復興のたすきをつないで、最後の抄紙機を動かすまでが描かれています。
凄惨な状況で、それでも勝つと信じ、ひたすら突き進んでいく石巻工場の人々の姿に、人間の底力を感じました。そして、涙がとまりませんでした。
日本の紙の現状
『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』では、紙がいかにしてつくられていくか、どのような材料を使い、どのように作られていくかが描かれています。
紙には会社によってそれぞれ特徴があり、読む者のことを考えてかさ高く、それでいて軽く、裏移りせず、めくった時の感触の心地よさといった技術は、熟練のオペレーターの腕に支えられているというのも、この本を読むまで知りませんでした。
意識もせず、めくるページのその中に、技術者たちの、たゆまぬ努力の結晶が詰まっているのだとおもったら、一枚一枚、ページをめくるのが愛おしくなりました。
本文の中にこんな表現があります。
紙には生産者のサインもない。彼らにとって品質こそが、何より雄弁なサインであり、彼らの存在証明なのである。
そんな技術者たちがの思いがこもったこの本のページは、めくりやすく、優しくて、読むたび指になじんでいきます。
作者の佐々さんはこの本の最後に、使用した紙の名前と、8号抄紙機の名前を記しました。それは出版業界から、日本製紙への感謝の気持ちだったのではないかな、と思うのです。