『東の海神(わだつみ) 西の滄海』は、『月の影 影の海』の500年前、延王と延麒の登極直後の事件を描いています。王とは何か、国とは、正義とは。そんな疑問を考えさせられる物語でした。
『東の海神(わだつみ) 西の滄海 十二国記 3』あらすじ
先王の暴政で荒廃した500年前の延国。延麒六太は蓬莱で育ち、乱世ため親に捨てられた麒麟。だから「王とは国を滅ぼすもの」という認識が強い。
おまけに蓬莱(日本)で見つけた胎果の王・尚隆は、不真面目で周囲を呆れさせる。
ある日、六太は妖魔を連れた少年に出会う。彼もまた捨てられた子どもだった。六太は更夜(こうや)という名前を与えた。
20年後、元州に反乱の噂が立ち始めた頃、六太は更夜と再会。しかし更夜は元州令尹・斡由の臣となっており、六太を拉致して元州へ向かう…。
Audible版は各キャラクターの演じ分けが素晴らしく、臨場感があります。六太の生意気そうな声、尚隆の飄々とした感じ、帷湍の怒鳴り声が味わえます。
正義とはなにか
※ここからネタバレを含みます
斡由の掲げる「正義」は、一見、理がありそうだけど、実は自分の失敗を他人になすりつけることで「立派な君主」を演じてただけでした。
だから、自分を否定する者は更夜の妖魔をつかって「始末」する。
正義を語るものが、必ずしも正義のものではない
人は正義を標榜するのだ
陽子には地蔵菩薩のような楽俊がいて救われたけど、更夜はダイバダッタのような斡由しかいなかったから、暗殺者になるほかなかった。
人との出会いによって、運命が大きく変わってしまうんですよねえ。
※ダイバダッタは権力欲のため、お釈迦様を裏切って殺そうとした人物です。斡由にぴったり
ファンタジーは絵空事じゃない
今回、『東の海神 西の滄海』で、私が最も心を掴まれたのが、関弓を守るため志願した若い母親の話です。
彼女は先王の暴虐時代、大人に妹を井戸に投げ捨てられました。だから復興の道筋を見せてくれた王を守りたいと志願しています。子どもに同じ思いをさせないために。
ここを読んで、戦時中、満州引き上げ時に「泣き声で見つかる」と子を殺したり、母親に殺させたりした人々のことを思い出しました。
小野主上は未だ敗戦の残り香が漂う時代(昭和後期)を生きてきた方だから、こうした描写がとてもリアルに胸に迫ります。
ファンタジーは絵空事ではありません。こちら側を映す鏡でもあるのです。
理想の上司・延王
尚隆の采配が素晴らしい。
「王の仕事は官を選ぶこと」ですが、帷湍や朱衡の最初に与えた官位も、彼らが邪魔されず働ける部署につかせています。まさに理想の上司。
ちなみに『アニメ十二国記脚本集』の小野主上のコメントによると、「500年後も玄英宮に残っているのは朱衡くらいのもの」だそうです。
民は王に似るものなのでしょうか。延の民も、州士相手に立ち向かったり、青状の蘭をリレーしたりとなかなかアクティブな民が多いですね。
十二国記関連
- 十二国記 0『魔性の子』
- 十二国記 1『月の影影の海 上』
- 十二国記 1『月の影影の海 下』
- 十二国記 2『風の海 迷宮の岸 』
- 十二国記 3『東の海神(わだつみ) 西の滄海 』
- 『十二国記アニメ脚本集1、2』
- 『十二国記 公式アニメガイド』
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